026 若松 隆男 2023-01-26
(有)宝納酒店代表取締役。SSI顧問、FBO顧問。「焼酎唎酒師講座」専任講師(SSI主催)
TWSCで、焼酎の「蒸留酒」としての可能性を柔軟に模索できたら
麦(甕・タンク貯蔵)、米(甕・タンク貯蔵)、泡盛(樽貯蔵)、その他、甲類など全6フライトを担当しました。リモート審査は外部バイアスに影響されず、落ち着いてできる利点があり、自分にとってはコメントを筆記がしやすいというユニバーサル環境がありがたかったです。
なお、ブラインドテイスティングのため、特に原料由来香を注視して、その強弱や特徴、品位や欠点を掴むようにして、味わいの傾向や全体バランス、総合的魅力を評価するよう努めたつもりです。1対1のトワイスアップにして、割ってどうかをみる場合も多かったです。
普段通りですが、言うまでもなく公平に客観的にみるよう意識しました。洋酒界の皆様との共同作業であれば、なおさらと思います。
想像していたように、高度数ものや樽貯蔵ものの評価が高い傾向が見られます。しかし、原料や仕込みや蒸留などの良し悪しについても検討された上であるようにも感じられます。日本の洋酒界の皆様が、焼酎に親和性を持っておられることにも心強さを感じました。TWSC焼酎部門のねらいに合致していると思います。
2次審査で、25度以下の低度数帯と26度以上の高度数帯に分ける取り組みもよかったと思います。特別賞関係では、バーテンダー賞が大変興味深かったです。
奄美黒糖焼酎の樽貯蔵などに対する高評価をみると、暖地ならではの貯蔵に関する優位性を感じました。
TWSC5年目の節目、それをアピールする公開イベントなどできたらよいですね。焼酎への理解を深めるためにも、継続は力なりなので続けていただきたいと思います。なお、焼酎部門に関しては毎年開催がよいのか、隔年などの開催がよいのか、議論がありそうな気もします。
少子高齢化、過疎化、日本人のアルコール耐性の低下、若者のアルコール離れ、競合する他酒類の低アルコール製品の伸長、健康志向、景気低迷による可処分所得の減少、雇用不安、厳しく見える労働環境への成り手不足、それに加えて新型コロナや芋焼酎原料芋の「基腐れ病(もとくされびょう)」など目に見えない微生物等による感染、温暖化やウクライナ戦争など、自然環境や人為による農作物や経済の不安、等々、焼酎不振の要因は枚挙にいとまがないですが、地方の中小零細規模の蔵が大多数である焼酎業界が抱える課題はあまりに多大です。
しかし、どの業界人も伝統産業と文化の担い手としての誇りは高く、泣き言は言いたくないという気持ちでしょう。だからこそ、未知の新たな市場や多様性の開拓を模索しようと自助努力していますが…。皆様のご理解とご支援をお願いいたします。
掲載されている「実行委員の声」も拝読し、共感するところが多く、そして安堵もいたしました。一つだけ申し上げたいことは、「焼酎を蒸留酒としての概念でみる」という論には同意ですが、一方で、歴史や生活文化や飲用形態からいうと、焼酎は清酒(醸造酒)的な概念にかなり近く、兄弟のようであります。少なくとも焼酎業界、および産地における認識の軸足は、今後もそこに置かれるものと思います。オリジンでありアイデンティティだからです。
ただし、もう一つの空いた片足で、蒸留酒としての方向性を柔軟に模索するということではないかと思うのです。その意味で、世界を知るTWSC、および関係者の皆様の日本的感性にご期待申し上げる次第です。
文=TWSC事務局
PROFILE
(有)宝納酒店代表取締役。SSI顧問、FBO顧問。「焼酎唎酒師講座」専任講師(SSI主催)、鹿児島大学農学部主催「焼酎マイスター養成コース」講師、FBO主催「酒匠講座」常任講師。