001 輿水 精一 2022-09-20
サントリー株式会社 名誉チーフブレンダー
TWSCは販売促進だけでなく、品質の向上につなげられるコンペティション
「コンペティションには2つの役割があると思います。1つ目は、造り手が自分の造った商品に対して客観的な評価を受け、より良い品質にするヒントが得られること。2000年代前半は、日本のウイスキー市場はダウントレンドでしたが、ISCに出品し、他社のマスターブレンダーやディスティラーから製品の評価を受けることで、自社製品を見直すことができました。
2つ目は、お客様にとっては、受賞した商品を飲んでみようという動機づけになること。そうすると、おいしい商品が飲まれていき、自然とおいしくない商品は淘汰されていく。
コンペティションには、造り手、お客様の両方向から品質を向上する機能があります。TWSCも回を重ねるごとに良くなっていっているので、続けることが大切です。
TWSCは、審査員がウイスキーコニサー保有者やバーテンダーなど、飲み手としての経験が豊かな専門家で構成され、お客様目線での審査が受けられるのが良い。更に、2021年からは審査員のテイスティングコメントを出品企業に無料でフィードバックしていて、これは、とても魅力的なサービスだと思います。販売数量で結果は分かるかもしれないけれど、どこが良くて買って頂けたのか、造り手は知りたいものです」
「リモート審査には良い点、悪い点があると思います。審査に慣れていない人にとっては、自分のペースで納得のいく審査ができるという点では良い。一方で、自分の評価を客観的に見直す機会がないのは懸念材料です。
ISCではボトル1本ごとに、審査員全員の前で自分の点数を発表します。そうすると、自分が他の人と違う評価傾向を持っている場合は、どこか見落としている点があるのか等、自省することができる。
TWSCでは2022年から、審査員に、審査したボトルの銘柄と、同じボトルを担当した他審査員の点数のフィードバックを始めました。それを、審査能力の向上につなげて欲しいと思っています。
また、審査員のテイスティングコメントで、味や香りの表現に留まっていて、良い悪いまで踏み込めていない人が散見されます。バランスが良い、余韻が長いだけでなく、それがおいしいかおいしくないかまでコメントして欲しい。特に、良くなかった点のフィードバックは造り手にとって貴重です」
「結果については、お客様の視点という意味で納得感はあります。ISCは審査員が全員、マスターブレンダーなどの造り手なので、発酵がおかしい、樽が悪いなどの製造過程での欠点が見えてしまうと、大きな減点対象になってしまう。一方で、TWSCはお客様目線での評価なので、造り手が気にしていた欠点が、お客様にとっては気にならないということもあります。そうして、お客様を知ることが、良い製品造りにつながると思います」
「新興のクラフト蒸留所が増えてきている昨今、TWSCがジャパニーズウイスキーの品質の向上に貢献してくれることを期待しています。新興の蒸留所では、品質評価が十分にできないところも多いと思います。ウイスキーは日本酒や焼酎などと違い、鑑評会がないのが現状。TWSCを販売促進の為だけでなく、品質の向上につなげられるコンペティションとして活用して欲しいと思います」
文=馬越ありさ
PROFILE
1949年山梨県生まれ。1973年サントリー株式会社(当時)入社。山崎蒸溜所での品質管理・貯蔵部門などを経て、1999年チーフブレンダーに就任。International SpiritsChallenge(ISC)で、最高賞を3年連続4回受賞した「響30年」をはじめ、様々なサントリーウイスキーの開発・ブレンドに携わる。2004年ISCの審査員に、2015年にはWhisky Magazine社のHall of Fameに、いずれも日本人で初めて選ばれた。