014 糸永 正之 2022-11-08
星搓大学客員教授/アラスカ大学フェアバンクス校顧問
お酒を取り巻く文化に触れることで、焼酎に親しんでもらえれば
「日本酒は江戸時代に普及しましたが、当時は金属ではなく木桶を用いて製造していました。現代では金属製タンクも多く用いられ、製法が変わったことにより、おいしいと評価される味も変わってきていると思います。現在のTWSCの受賞結果も、時が経った際に、当時の文化を知れる歴史的な資料になる可能性もあるという意味で、貴重な結果だととらえています」
「蒸留所単位だと、海外へ発信する余力がないところが多いと思います。TWSCというイベントを、フォーリン・プレスセンター※を活用するなどして海外メディアへ発信していければ、それをきっかけに小さな蒸留所でも海外の方に注目してもらえる可能性があるのではないでしょうか。日本人は、自国の商品や文化を正当に評価することが苦手な傾向があります。利害関係のない海外のメディアが評価してくれることは、影響力が大きいです。ジャパニーズウイスキーも、海外のコンペティションで評価され国内でのブームにつながったので、海外への情報発信には注力していって欲しいです」
※日本に関する多様で正確な報道が世界中で行われるよう、外国メディアの取材活動を支援している公益財団法人
「焼酎は國酒でもあるので、日本発のコンペティションであるTWSCで取り扱うのは良いことだと思います。昨年、日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術である「伝統的酒造り」が登録無形文化財に登録され、焼酎はこれに含まれます。今年に入り、「伝統的酒造り」はユネスコ無形文化遺産への提案候補としても選定され、焼酎の海外進出の促進につながることが期待されています。
焼酎の海外進出では、1867年のパリ万国博覧会に薩摩焼酎が出品されていました。当時、ガラス瓶は普及しておらず、陶器に入れて浮世絵で包んで輸出していたのです。それがヨーロッパでのジャポニズムの開花につながっています。
お酒は食文化の頂点であるといっていいほど文化を内在しているので、自国文化を語る際に非常に有効なツールです。お酒の周辺にある文化を輸出し、そこから焼酎に親しんでもらえると良いですね」
文=馬越ありさ
PROFILE
1947年福岡県北九州市生まれ。早稲田大学在学中の1975年にブータン王国を初訪問。その翌年から6年間、ネパールのカトマンズを拠点にヒマラヤ各地を歩く。帰国後はテレビの仕事で86 ヵ国を取材。その他『ナショナル・ジオグラフィック』誌の極東担当通信員、学習院大学東洋文化研究所客員研究員、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同研究員を歴任し、現在も社会学や言語学の研究に深く携わっている。