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ジャパニーズウイスキーの
定義に関するQ&A
- ジャパニーズウイスキーについて、①ジャパニーズウイスキー、②ジャパニーズニューメイクウイスキー、③ジャパンメイドウイスキーの3つのカテゴリーを設けていますが、それはどんなウイスキーですか?
- ①のジャパニーズウイスキーは日本の蒸留所で糖化・発酵・蒸留・熟成を行ったもので、それぞれのスペックは定義の表を見て下さい。②のジャパニーズニューメイクウイスキーは2019年から新しく設けたもので、③のジャパンメイドウイスキーはひと言でいえば日本でブレンド、瓶詰めされたウイスキーのこと。日本産ウイスキー(ジャパニーズウイスキー)に外国産ウイスキーを混ぜてもOKというものです。ただしウイスキーの規定から外れるモラセス(廃糖蜜)原料の醸造用アルコールを加えたものは、ジャパンメイドウイスキーとはなりません。これはそもそも「穀物原料」というウイスキーの定義から外れるからです。また外国産ウイスキーのみで、日本産ウイスキーが入っていないものも、ジャパンメイドウイスキーにはなりません。
- ①のジャパニーズウイスキーから詳しく聞きたいのですが、これは糖化から熟成まで、すべて日本国内の蒸留所で行うことが必須というわけですね。その場合、原料の穀物は日本産でなくても構わないと。
- その通りです。これは日本だけでなく、どこの国のウイスキーも穀物については自国産と限定していません。それはともかく、あくまでも日本の蒸留所で糖化・発酵・蒸留・熟成をさせたウイスキーのみをボトリングしたものが、ジャパニーズウイスキー、日本ウイスキーです。将来的にはGI、地理的呼称として認められることを目指しています。
- 5年前にウイスキー文化研究所が提唱した熟成3年以上という条件が、このTWSCの定義では2年以上となっていますが、それはどうしてですか。
- これはTWSC定義の重要なポイントだと思うのですが、この4~5年でウイスキーの世界は大きく変わりました。ウイスキーは寒い国、北の大地でしか造れないという、それまでの常識が覆され、台湾やインドという暑い国でも素晴らしいウイスキーができています。逆に今ではスコットランドの蒸留所で、ウェアハウスにヒーターを入れるところもでてきました。スコッチが熟成3年以上と法律で定めたのは1916年のことです。それもロイド・ジョージ内閣の時に、酒の消費量を抑えるために取られた措置で、品質を確保するための法律ではありません。第一次大戦のさなかで、ロイド・ジョージは禁酒論者としても知られていました。それはさておき、後発である日本が、スコッチに倣う必要はないと思いますし、今誕生しつつある小規模なクラフト蒸留所を参入しやすくするためにも、熟成2年が日本独自の方法だろうと思います。スコッチとは違うジャパニーズウイスキーのオリジナリティーを出すためにも、あえて1年短い2年としました。もちろん、これはあくまでもTWSCのカテゴリーの定義です。
- なるほど、2年でもスコッチの5~6年に匹敵するウイスキーができるという考え方ですね。では、もう1つ700リットルという熟成樽の容量を、この定義で言及していないのはどうしてですか。それと、あえて樽とは別の「木製の容器」という言い方もしていますが、それはなぜ?
- 700リットルというのもスコッチに倣った数字ですが、よくよく考えてみたら、これも根拠がよく分かりません。おそらく当時スコッチが使っていた最大の樽が、シェリーのソレラ用の樽(1番下のソレラ樽か、その上のクリアデラ樽)で、その容量は650~700リットルくらいだったからではないでしょうか。だとすると、ジャパニーズウイスキーのこれからの可能性を考えれば、容量の規定は要らないんじゃないかと。それと木製の容器でも良いとしたのは、ダブルアーチ構造を持つ洋樽だけでなく、大きな桶のようなものでも熟成ができるとしたほうが、より自由で、より可能性がでてくると思ったからです。ダブルアーチ構造、いわゆる側板の曲げ加工が必要な洋樽は硬くて丈夫なオーク材が一番適していますが、曲げ加工を必要としない日本の木桶なら、オーク以外の様々な木材が使えます。だから700リットルという容量の上限も、樽に限定するという表現も、我々が考えるジャパニーズウイスキーの定義には必要ないと考えたからです。これも新しく参入するクラフトと、ジャパニーズウイスキーの可能性を広げたいと思ったからです。
- 700リットルを超える木製の桶でもよく、そして熟成も2年以上でジャパニーズウイスキーと呼称できるということですね。その場合、例えばウッドチップとか、インナーステイブとかは考えていますか。
- 定義には謳っていませんが、ウッドチップも、樽や桶の中に入れるインナーステイブも現時点ではスコッチと同様、認めない方向でいきたいと思っています。ただ、これにはもう少し時間の経過を見る必要があるのと、議論が必要かもしれませんね。
- それでは②のジャパニーズニューメイクウイスキーについてはどうですか。
- これも小規模なクラフトのためですが、新しく登場してくるクラフト蒸留所を、TWSCとして応援したいという気持ちがありました。昨年の第1回TWSCでは、カテゴリーになかった「嘉之助ニューポット」を“ベスト・ニューカマー”として表彰したのも、その表れです。2年経って、正式にジャパニーズウイスキーと定義される前のニューメイクにも美味しいもの、将来的な可能性を秘めたものがあります。それらを表彰しようというのが、このカテゴリーの趣旨です。もちろん、アタマに“ジャパニーズ”と付く以上、熟成2年以上というところ以外は、すべて①のジャパニーズウイスキーの定義を満たしていないといけません。つまり、外国産の原酒や、モラセス原料の醸造用アルコールを入れたものは、このジャパニーズニューメイクウイスキーにはなりません。さらに言えば、まったく熟成させていないニューポットはそもそもウイスキーではないので、ジャパニーズニューメイクウイスキーとはなりません。
- ということは、極端なことを言えば、樽に詰めて1日でも、ジャパニーズニューメイクと言えるわけですよね。それとこれはサンプルの状態で出品することもできるのですか。
- あくまでも市販しているもの、市販を予定しているものに限られます。樽出しのサンプルでは出品できません。それと、たしかに1日でもジャパニーズニューメイクと言えますが、それはあまり考えなくてもいいかなと思います。
- ではTWSCのカテゴリーで一番わかりづらいのが③のジャパンメイドウイスキーだと思うのですが、これはどういうものですか。
- これについては、いろいろと迷いました。第1回のTWSCでは、この部分はあいまいで、最終的にはワールドウイスキーとして出品してもらいました。しかしワインに「日本ワイン」と「国内製造ワイン」があるように、日本製ウイスキーにも、純国産とそうでないものがあってもいいのではないかと思いました。外国産のウイスキー原酒を使って日本人ブレンダーが、日本でブレンドする。日本のブレンド技術は世界一だとも思いますから、そんなウイスキーがあってもよいのではないかと。ということで、ジャパンメイドウイスキーは、外国産のウイスキー原酒を、日本でジャパニーズウイスキーとブレンドして造られたもののことを指します。あくまでも日本産ウイスキーをブレンドしたものであることが条件です。
- 外国産ウイスキー原酒といっているのは、たとえばスコッチやアイリッシュ、アメリカン、カナディアンなどですか。それ以外の国のウイスキーもOKですか。
- 多いのはスコッチだと思いますが、もちろん、それ以外の5大ウイスキー、台湾やインドなどのその他の国々のウイスキーもOKです。ただし、何度も言うようですが、「穀物を原料とした蒸留酒で、木製樽で熟成させたもの」という、世界共通のウイスキーの定義内で造られていることが条件です。スコッチはオーク樽と言ってますが、それ以外の木樽、もしくは木製容器で構いません。
- たとえばスコッチだと、スコットランドであらかじめブレンドしたバルクのブレンデッドウイスキーなどもありますが、これはOKなのですか。
- 向こうですでにブレンドしたものをバルクで入れても、それにジャパニーズウイスキーをブレンドすれば、ジャパンメイドウイスキーとなります。何度も言うようですが、ジャパニーズウイスキーが一滴も入らないものは、たとえそれを日本人のブレンダーが、日本でブレンドして瓶詰めしても、残念ながらそれはジャパンメイドウイスキーとはなりません。
- つまりTWSCのカテゴリーの中では、純国産のジャパニーズウイスキー2種と、いわば混血のジャパンメイドウイスキーの3種類のカテゴリーがあるというわけですね。そしてジャパニーズウイスキーが一滴も入らないものは、たとえ日本でブレンドしても、それはワールドウイスキーだということですね。
- その通りです。スコッチのシングルモルト以外は、ブレンデッドもグレーンも、そしてアイリッシュもアメリカン、カナディアンも、原産国でのボトリングが義務付けられていませんから、バルクか樽で輸入して日本でボトリングしても、スコッチウイスキーであり、アイリッシュ、バーボン、カナディアンを名乗れます。スコッチのシングルモルトだけはスコットランド国内でボトリングして、ラベルまで貼らないと「スコッチシングルモルト」と名乗れませんし、そもそもバルクや樽での輸出も禁じられています。
- では反対にジャパニーズウイスキーを海外に持っていって、そこで瓶詰めしてもジャパニーズウイスキーを名乗れるということですか。
- そこまでは、まだ考えていません(笑)。また、それを決めるのは我々の仕事ではないと思っています。そのためにはJWA(ジャパニーズウイスキー協会)みたいな組織が必要だと思いますが、まだ先の話ですね。
- 分かりました。話はもどりますが、ジャパンメイドウイスキーには、そうするとシングルモルト、シングルグレーンは存在しないということですね。
- 複数の原酒を混ぜることが前提となっているので、その通りです。
- 外国産のウイスキーにジャパニーズウイスキーを混ぜる…。その場合の比率とかはあるのですか。たとえばジャパニーズが全体の50%以上とか。いわゆる原酒混和率みたいなものは…。
- それは考えていません。一滴でもと言いましたが、将来的にはジャパニーズが少なくとも50%とか、60%とかという比率を設ける必要があるかもしれないですね。とにかくどれだけ、このカテゴリーのウイスキーが造られるかにもよりますし、しばらくは、比率は決めずにおこうと思っています。ただ、“ジャパニーズ”と付く以上、原酒混和率は51%以上が必要かと思います。いわゆる主原酒がジャパニーズということです。