2021-01-22
スコッチ【0056夜】”ディアジオの異端児”と言われるベンリネス
スコッチには稼働中のモルトウイスキー蒸留所が130近くあるが、そのうちの半数近い50を超える蒸留所がスペイサイドに集中している。スペイサイドモルトの特徴は華やかでフルーティ、スイートでマイルドだとよく言われる。その代表格がグレンフィディックであり、ザ・グレンリベットであり、ロングモーンなどだが、その反対に、あえてスペイサイドらしからぬヘビーでナッティ、サルファリーな酒質を追求しているのが、モートラックやダルユーイン、ベンリネスである。すべてディアジオ社が所有する蒸留所で、この3つは『ディアジオの異端児』と呼ばれている。中でもモートラックは、その複雑なシステムとパンチの効いたフレーバーが『ダフタウンの野獣』と形容されるが、ベンリネスもダルユーインも、その複雑なシステムや酒質では負けていない。3者に共通していることはクローズドで、一切の見学を受け入れていないことだ。
ベンリネスは秀峰ベンリネス山(標高840m)の麓に位置する蒸留所で、あえてナッティでヘビーな酒質を得るために、現在一般的となっている清澄麦汁ではなく、濁った麦汁を抽出する。発酵も50時間と短めで(乳酸発酵をさせない)、蒸留も銅とのコンタクトを少なくするために、短い時間で済ますという。しかもミドルカットの下限を58%に設定しているというから驚きだ。アイラの蒸留所ですら、最低は60%で、平均は65%くらいであることを考えれば、異質としか言いようがない。当然ミドルカットの下限が低いほど、サルファリーでオイリ―なニューポットとなる。さらに2007年まで、特異な3回蒸留も一部でやっていた。
すべてはジョニーウォーカーの原酒として、ボディの厚い、ナッティでサルファリー、そして同社のブレンダーが形容する“ミーティー(肉のような)”なフレーバーが必要だからだ。いわばジョニーウォーカーの血肉となるフレーバーである。当然、使用する樽はほとんどがヨーロピアンオークのシェリー樽。シェリー樽で長く寝かせるためには、ニューポットの段階で、それなりのボディが必要というわけである。
(上)”ディアジオの異端児”を生み出すベンリネス蒸留所は、秀峰ベンリネス山の北麓に位置する。(下)こちらは2007年以前、変則的な3回蒸留を行っていた頃に蒸留されたベンリネス。複雑でコクのあるアロマと、ジューシーでフルーティ、スイートでスパイシーな風味が長い余韻となって続く…まさに逸品だ。 一覧ページに戻る