• WHISKY & SPIRITSの現在
  • スコットランドの原酒は奪い合い
    テイスティングで、即断即決します

    株式会社信濃屋食品
    スピリッツバイヤー
    北梶 剛

 東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)の特徴は、ウイスキー、ブランデー、ラム、テキーラ、ジン、等々・・・・ジャンルの幅広さと、出品点数の多さ。それだけに、審査員には、ジャンルを超えて、多くの出品ボトルを評価するテイスティング能力が求められる。北梶剛は、品揃えの豊富さで知られる酒販店、信濃屋のスピリッツバイヤー。仕入れのために、既成のボトルをテイスティングするだけでなく、オリジナルボトルの原酒を求めて、スコットランドや日本、国内外の蒸留所をテイスティング、カスクハンティングして回るというツワモノだ。その北梶が、オリジナルボトルの世界、TWSCへの期待を語った。(文中敬称略)

スコットランドの原酒は奪い合い
テイスティングで、即断即決します

──信濃屋は、東京を中心にスーパー3店舗、酒販店13店舗、ネット酒販店2店舗を展開する小売りチェーン。特に、ワインとスピリッツの品揃えは傑出していて、英国ウイスキーマガジン社主催の「アイコンズ・オブ・ウィスキー」複数店舗部門で、世界の専門店トップ3に選ばれたほど。スピリッツの扱い点数は、バイヤーの北梶ですら、正確な数字はちょっと把握しきれないというが、全店で約4000種類。しかも、他の酒販店と違うのは、「プライベートボトリング」シリーズと名付けたオリジナルボトルを数多く出していることだ。北梶自身が蒸留所を歩き回り、樽ごとにテイスティングをして集めてきたものである。

 信濃屋は、ワインとスピリッツをはじめ、食品のセレクトショップとして、お客さまにいいものをお届けする、というコンセプトでやってきました。それで、そのコンセプトが分かりやすく伝わり、お客さまに響く企画はなんだろうと考えた時に、蒸留所の中の出来のいい樽をセレクトしてくれば、同じ蒸留所でも樽が違えば、ぜんぜん違うことを見せられる──そんなアイデアに行き着いたんです。シングルカスクのプライベートボトリングですね。始めたのは12年前。私の前任者の時代です。

 最初は、ジャパニーズウイスキーから始めました。その頃は、まだ安く樽買いができましたから。その後、スコッチウイスキーへと広げていったんです。スコッチを始めた頃は、春夏秋冬に各1本ずつ出していました。それくらいの頻度でしたので、当初はサンプルを取り寄せて、テイスティングをし、購入する樽を決めていました。

 現在は、年間30本くらいを出していますので、スコットランドへ出向いて探すようにしています。始めた当時に比べて、世界的にウイスキーの人気が高まり、現地でも原酒は取り合いです。日本でサンプルを待っているだけでは、いい原酒が手に入らなくなったという事情もありますね。

スコットランド出張は、数十軒の蒸留所巡り

──「ウイスキー冬の時代」からいままでに築いた信頼関係があり、信濃屋は比較的、原酒を確保しやすい立場にあるという。それでも、スコットランドでの原酒探しは、なかなかハードだ。

 スコットランドには、年に2、3回出張します。蒸留所にもよりますが、少ないと10種類くらい、多いと50~60種類、平均で20~30種類の樽をサンプリングしていきます。そうすると、1日に回れる蒸留所は3カ所が限度ですね。不便な場所にある蒸留所で1日1カ所ということもありますし、移動でつぶれる日もあります。だいたい1回の出張で2週間かけて、数十カ所の蒸留所やボトラーズを訪問します。

 サンプリングの際には、できるだけテイスティングを行います。いい原酒は、即座に仮押さえをしてしまわないと、よそに取られてしまうかもしれません。テイスティングをして、行けるとなれば、その場で価格を詰めて、ラベルの打ち合わせまでしてくることもあります。

 行くたびに、原酒不足は肌で感じますね。同じ原酒なのに、価格が1年前の2倍なんていうことは珍しくありません。それでも、樽が出てくるだけマシで、古い原酒だとサンプリングすらさせてもらえない状況になってきています。

 ですから、古い原酒を当てにするのではなく、いかに若い原酒の中からいい樽を見つけ出すかが、我々やボトラーズの腕の見せどころになっています。蒸留所も、最近、スコットランドで増えてきたクラフト蒸留所などは、お互いに情報交換をしながら、若くても質の高い原酒造りに取り組んでいますね。

──いい原酒を探すとはいえ、いいと思ったら何でも買い付けるわけではない。信濃屋のプライベートボトリングには、4つのコンセプトがあると北梶はいう。

 まず幅広いお客さまに対応していくこと。なるべくたくさんのお客さまに飲んでいただきたいから、価格帯だけでも、1本5000円くらいから5万円、6万円のものまでと、幅を持たせています。二番目に、小さなクラフト蒸留所を積極的に取り込んでいくこと。既存の人気ブランドに引きずられないように、いいものを見極め、お客さまに提案していくようにしています。

 さらに、日本人に合った酒を提供すること。日本人は、独特の繊細な味覚を持っていると思います。その好みの方向性を把握して、探してくるようにしています。そして最後に、特定の蒸留所に偏ることなく、なるべく数多くの蒸留所とお付き合いするようにしています。

 これまで、スコッチで70カ所くらい、それ以外も含めると合計80カ所近い蒸留所の原酒をプライベートボトリングにしてきました。それでも、スコットランドの蒸留所全体のまだ半分くらいですから、もっと広げて取り組んでいきたいと思っています。

「お客さまが飲むシーン」でテイスティング

──バイヤーとして、テイスティングそのものが日常業務となっている北梶だが、テイスティングにあたっては、独自のスタイルを守っている。1本の酒を、シチュエーションを変えながら、何回も確認していくのだという。

 基本的に、テイスティングは午前中に行います。午前中のほうが鼻が利きますし、五感が研ぎ澄まされています。一日のうちで最も官能評価に向いた時間帯だと思います。テイスティングコメントも、午前中に書いています。

 それから夜、サンプリングの酒を親しいバーに持ち込んで、バーのお客さまの立場で試飲してみます。私たちのプライベートボトリングは、バーで飲まれることが多いので、お客さまがバーで飲んだときにどんな味わいなのか、実際に確認してみます。

 そうすると、朝、オフィスで行ったテイスティングとは、ずいぶん印象が変わることがあるんですね。原酒1樽を買い付けるのは、それなりにリスクがありますから、朝と夜の結果を見比べながら、慎重に判断するようにしています。

 同じような印象の変化は、スコットランドと日本とでもあります。スコットランドの蒸留所では、だいたい20~30種類の樽をサンプリングして、その場でテイスティングをすることが多いのですが、なぜか現地でのほうが美味しく感じてしまいます。美味しさが2~3割増しになるんですね。やはり酒は、その土地のもので、本来の気候風土が美味しく感じさせるのかもしれません。現地ですごく美味しいと感じても、日本に持ち帰ると、あれっ、普通だね、ということがよくあります。

──では、今回のTWSCのブラインドテイスティングには、どのように臨むのだろうか。

 テイスティングする本数が多いので、量をコントロールしながら、ペース配分に注意しようと思っています。あとは、普段からサンプリングでやっている通り、まず、ノージングで香りを確かめて、粛々と進めていくだけですね。1日に数十種類もテイスティングすることで、他の方にも、私の仕事の大変さを理解していただけるのではないかと期待していますけど(笑)。

ウイスキーの“供給人口”も増えてほしい

──TWSCで、北梶が最も注目するのは、やはり審査員が日本人であること。プライベートボトリングを担当するには、日本人の嗜好を知り尽くしていることが求められるからだ。

 日本人のマーケットと、ヨーロッパ人のマーケットとでは、食べ物も違いますし、舌も違いますから、何を美味しいと感じるかは、けっこう違うのではないかと思っています。今回のTWSCでは、審査員がすべて日本人ですので、日本人の舌に合ったものが選ばれると思います。日本人が飲みたい酒が評価されることで、消費者にとって、かなり参考になる結果が出るんじゃないでしょうか。海外のコンペで高い評価を得たものが、必ずしも日本人の好みに合うとは限りませんから。

 私の個人的なイメージですが、日本人の味覚は繊細、緻密です。最近、アジアでウイスキーが流行ってきて、力強くてリッチなシェリーカスクが人気になったりもしていますけど、日本人はむしろ、香り、味わい、フィニッシュのすべてでイメージが変わったり、新たな展開があるような、繊細で緻密なウイスキーが好まれるように感じます。

 プライベートボトリングもその考え方でやっています。今回の結果で、もし、それが違っていたら、マーケティングを見直せばいいんですから(笑)。いずれにしても、マーケティング的には、非常に参考になるコンペだと思っています。

──加えて、ウイスキーに偏りがちな日本のスピリッツ市場が、TWSCを機に、他のスピリッツに目が向くことも期待できるという。

 今回のTWSCが、ウイスキーだけではなく、ブランデーやラム、テキーラ、ジンなど幅広いスピリッツを対象としたことに、大きな意味があると思います。私自身は、ブランデーやラムの買い付けにも行っていますし、プライベートボトリングには、ブランデーの中でも、コニャックやアルマニャック、カルバドスがあり、スピリッツではラムとジンがあります。

 でも、やはり世の中にはウイスキー人口のほうが多くて、なかなか他のスピリッツは飲んでもらえない。審査員にとっても、結果を見た一般消費者にとっても、ウイスキー以外のスピリッツを再認識するいいきっかけになるんじゃないでしょうか。ウイスキーをメインに飲む方でも、他のスピリッツのよさを分かったうえでウイスキーに戻っていただければ、すごく理解が深まるように思います。

──最後に、北梶は、いまのウイスキーブームに密かに期待するものがあるという。

 いまウイスキーがブームですけど、東京オリンピックに向けて、さらに盛り上がっていくでしょう。そのブームの中で、ウイスキーを仕事にする人が、もっと増えてほしいなと思っています。生産者としての蒸留所、飲食店としてのバーテンダーは分かりやすいですけれど、我々リテーラーやインポーターのような裏方としてマーケットを支える立場の仕事もあります。そういったところで働きたい人が集まってくるよう、消費者だけでなく、供給側のウイスキー人口も増えていくといいですね。

(text=TWSC実行委員会)