• WHISKY & SPIRITSの現在
  • ブラインド評価で真っ先に見るのは
    「人に薦められる酒」かどうかです

    TWSC審査員
    Scotch Bar John O’Groatsオーナーバーテンダー
    マスター・オブ・ウイスキー
    鈴木勝二

  東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)で審査員を務める鈴木勝二。見事な品揃えのモルトバーとして知る人ぞ知る「Scotch Bar John O’Groats=ジョン オグローツ」(埼玉県草加市)のオーナーバーテンダーだ。マスター・オブ・ウイスキーの資格を持ち、ウイスキーセミナーの講師や専門誌『ウイスキーガロア』のテイスターとしても活躍している。その鈴木が、TWSCの審査を前に、自身のテイスティング哲学を語った。(文中敬称略)

ブラインド評価で真っ先に見るのは
「人に薦められる酒」かどうかです

──鈴木の店「ジョン オグローツ」に足を踏み入れると、店中の壁が、すべて天井までウイスキーボトルで埋め尽くされていることに驚かされる。しかも、よくあるような、ディスプレイとして空きボトルを並べているのではなく、すべてお客さまに飲ませるための中身が入った“現役”のボトルだ。

 実際にはウイスキーだけで1300本以上はありますね。これらとは別に、倉庫にも400本以上は置いてあります。ウイスキーが中心のお店ではあるんですけれど、ブランデーやラムなど、見えない棚や冷蔵庫に他のお酒もひと通りは用意してあります。ウイスキーがなくなっても、営業はできますよ。(笑)

 飲食店やバーでの修業を経て、この店は2001年に開業したのですが、当初はここまでウイスキーを揃えるつもりはなかったんです。ところが、最初は白紙状態だったお客さまたちが、飲み手としてどんどん成長していく。それに合わせて、お客さまたちを喜ばせたいなと思っているうちに、気が付いたらこんなに増えていた、という感じです。

──その時々のお客さまが、どんな銘柄を、どんな飲み方で飲むのが最も満足してもらえるのか、カウンターの内側からできる限り見極めて対応していくのが、鈴木のスタイル。客層が広がるにつれ、ボトルが増えていくのは必然でもあった。ただし、店に入れる酒を選ぶ際には、独特の感覚が働くという。

 全国のバーテンダーで共感してくださる方も多いと思うんですが、いい酒というのは、声が聞こえるし、光って見えるんです。一般の方でしたら、試飲しないと買えないと思うのは当たり前なのですが、逆に、試飲しないと買えないんでしたら、プロではありません。

 ボトルが1000本並んでいようが、1万本並んでいようが、いいボトルは光って見えるんです。あとは経験ですよね。この蒸留所で、このボトラーズで、この色で、この度数で、この樽で・・・・データはあるわけですから、開けてみないと見当がつかない、ということはありません。

 ただ、そうしたスペックを知らなくても、いい酒は光って見えます。なので、現物を直接見られないインターネットでの仕入れは、あまりやりたくない。ボトルを目の前にして、対話して見極めることが大切なんです。目と耳が基本ですね。いい酒からはオーラが出てるんです。

 でも、そうやって仕入れた酒でも、100人が100人とも美味しい、ということはないですよ。ですから、お客さまを見て、この酒を喜んでくれるだろうなという方にお出しします。その酒の大切さが分かって、なぜお薦めしたのかも感覚的に分かってくれるようなお客さまなら、こちらも嬉しいですね。バーって、基本的にくつろぐ場所ですから。

10年先を思い描いて仕入れます

──最近は、世界的なウイスキーブームで原酒が足りず、販売中止や品薄の銘柄が少なくない。しかし、品薄になったボトルを追い求めていくのは自分のスタイルではない、と鈴木はいう。

 そりゃ品薄の影響はありますよ。でも、品物の奪い合いの半面、譲り合いになっている部分もあるんです。1店舗1本限りにしてください、という酒が複数のルートから来たら、1本だけ買って残りは知り合いの店に譲ったり、とかね。

 ただ、今まで普通に出していた酒を、品薄になったとたん、出し惜しみをするのはサービスマンとしてどうかと思うし、品物がなくなるんであれば、あきらめたほうがいい。だいいち、スタンダードボトルと言われているウイスキーだって、味が変化していくことがあるわけですから、手に入らなくなったら、味の方向性が同じ別の酒で提案するほうがいいんじゃないでしょうか。

──ウイスキーの味も、お客さまの好みも千差万別。無数の美味しいマッチングがあり得る。そこの見極めが出来れば、特定の銘柄が不足しても困ることはないというわけだ。とはいえ、お客さまを喜ばせ続けるためには、長い視点での準備が必要だ。

 品物がなくなりそうだから慌てて買い集める、ということは絶対にやりたくない。2年先、3年先、5年先を予測して酒を仕入れ、ストックしていくんです。だから、今日仕入れた酒を、今夜、店に出すとは限らない。私の場合は、最長で10年くらい先まで思い描いて、ボトルを仕入れています。将来のお客さまの笑顔を見たいですから。

 うちのような店は、バーではありますけど、骨とう品店のような役割もあるんです。お客さまが、飲みはしなくても、棚にあるボトルを眺めて楽しむような、そんなニーズもあると思っています。今のところ、将来用のボトルを見せる棚はないのですが、作ってもいいかなと思っています。

──一方で、バーを訪れる客層は、以前よりずっと広がり、酒の楽しみ方がスマートになったという。

 以前は、バーにダベリに来るようなお客さまが多かったんですが、いまは、もっと主体的にお酒を楽しもうというお客さまが増えましたね。酒の知識が豊富な人や、マニアックな好みの人たちが多い、ということではなく、知識のない初心者でも、スマートな飲み方のお客さまが増えています。

 若い女性がひとりで来て、「私が好きそうなお酒を3杯、見つくろってください」とかね。そう言われると、こちらも考えますよ。お客さまと、将棋を指しているようなものです。3杯目は、「王手! どうだ」という気分ですね。

この1杯にお金を払いますか?

──バーテンダーとして、ウイスキー講師として、あるいは雑誌のテイスターとして、テイスティングを行う機会が多い鈴木だが、その評価基準は明快だという。

 私の基準は、「どう使うか」と「人に薦められるか」です。例えば、ブラインドでウイスキーを飲んだ時に、あっ、これは水割りに適しているなとか、これはストレートで飲むべきだなとか、こういう時間帯のハイボールに向いてるなとか、まず使い方を考えます。バーテンダーは本能的に、この酒は自分の店に欲しいか、お客さまに出したいか、で判断するんですね。

 バーテンダーの感覚は、そうでない人には伝わりにくいと思いますが、同じことの視点を変えて、「あなたはこの1杯にお金を払いますか」と聞けば、一般の人にも伝わるんじゃないでしょうか。お金を払うということは、美味しいということですから。

 その美味しさが、バーのカウンターできちんとしたグラスを使って飲みたい美味しさなのか、家の晩酌でくつろぎたい美味しさなのか、瞬間的に点数付けをしているんです。では、なぜ、そういう判断をしたのか、掘り下げていくことが、すなわち評価をするということなんですね。

──評価にあたっては、まずバーテンダーとしての直感があり、そう感じた理由をブレイクダウンしていく。その掘り下げの過程で、順に細かな要素を検討し、自分の中での評価にプラス、マイナスを重ねていくのだという。

 例えば、バーテンダーが、瞬間的に、これは水割りに向いているな、という判断をする。どうしてそう判断したかを掘り下げていくと、ボディが中庸で安定感がある、香りが開きもしないけど沈降もしないとか、経時変化がこうだとか、自分なりの細かな多くの基準で判断していることが見えてきます。

 あるいは、この酒はストレートで飲みたい。どうしてだろう、と掘り下げていくと、香りがいい。その特徴はなに。華やかな香りがする。バニラの香りと花の香りがする。なんの花だろう・・・・というような感じです。

 ブラインドテイスティングでは、ブランドを当てに行かないようにしています。当てようというのは自己顕示欲です。それより酒と対話していく。酒は、まずアロマで色々と訴えかけてきます。その要素が多様で、経時で変化しないものであれば、それはいい酒であることの証しになります。

 とはいえ、実際のテイスティングでは、できるだけ肩の力を抜くことが大事です。酒と対話しようと構えていると、かえって声が聞こえません。脳がリラックスした状態のほうが、すんなり聞こえてくるんですね。

海外コンペを参考にしたことはありません


──こうした鈴木の姿勢は、ウイスキーセミナーでも一貫している。知識の修得ではなく、ウイスキーとの付き合い方を学んでもらうことに力を注いでいる。

 ウイスキーセミナーで受講者の方にブラインドテイスティングをしてもらうことがありますが、むしろ初心者の方から、面白い表現がポンポン飛び出してきますよ。事前の知識が少ないだけに、型にはまった言葉ではなく、それまで聞いたことがない新鮮な言葉で表現してくれるんですね。

 受講者に身につけてほしいのは、「知識」ではなく「知恵」。知ったことをどう使うかです。これは希少な酒で将来値上がりするから買っておこう、なんていう知識ではなく、なんで希少なのか、その背景を理解する。背景が分かると、それを扱っている人への思いやりも自然と出てくる。知識は必要ですけど、その先の、「どうして」を考えようよ、ということなんです。

──TWSCで審査員を務める鈴木は、実はコンペ嫌いでもある。自分の舌よりも権威に頼ることを良しとしないからだ。

 私自身は、海外コンペの結果を参考にしたことは一度もありません。どこそこのコンペで金賞を獲った酒ですので仕入れませんか、と言われても応じたことがありませんし、お客さまから、金賞獲ったあのお酒ありますか、と言われるのも、正直、好きではありません。なぜ自分で判断しないの、と思っちゃうんですよね。

 ただ、今回のTWSCは、審査員として、私が尊敬するような力量を持ったプロたちが全国から集まります。その一角に加われただけでも光栄ですし、レベルの高い審査員たちが、ブラインドテイスティングで評価を行う。なんのしがらみもなく、正々堂々と評価するというのは、非常にワクワクします。消費者から見て、信頼性のあるコンペだと思いますし、一般的な評価を覆すような結果が出ることが、あるかもしれません。

(text=TWSC実行委員会)