• WHISKY & SPIRITSの現在
  • ウイスキーより面白い!?
    ラムは最強の蒸留酒

    TWSC実行委員
    ㈱SCREW 代表取締役社長
    日本ラム協会 会長
    吉祥寺SCREW DRIVER・渋谷ARIAPITA RUM&PUNCHオーナーバーテンダー
    海老沢 忍

  東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)の実行委員会には、さまざまなスピリッツのエキスパートが参加している。海老沢もそのひとり。愛するラムに関しては、日本でトップクラスの知識と経験を持ち、所有するビンテージラム6000本は、世界有数のコレクション。日本ラム協会会長も務める。ラムの現在と、TWSCについて語った。(文中敬称略)

ウイスキーより面白い!?
ラムは最強の蒸留酒

──もともとの海老沢の本業はバーテンダーだ。20歳でこの世界に入ったものの、当初はウイスキーに馴染めず、バーテンダーとして挫折感を抱えていた時代があった。そんな頃に、ラムと初めての出会いがあったという。

 バーテンダー修業の振り出しで勤めたのはホテルのバーでした。ちょうどシングルモルトウイスキーが入り始めた時代です。マネージャーから、シングルモルトは必ず伸びるから覚えなさい、と言われて味や香りを暗記し始めました。でも、お酒を飲めるようになったばかりの20歳のバーテンダーに、シングルモルトの繊細な味や香りを理解するのは難しすぎました。

 結局、シングルモルトがよく分からないまま3年間が過ぎ、次のバーに転職しました。そのバーのマスターは、シングルモルトが得意な人だったんですが、ウイスキーがしっくり来ないのなら、こういうものもあるよ、と飲ませてくれたのがラムだったんです。銘柄は「ロンサカパ」でした。

 飲んだ瞬間、「まるいこのお酒は、なに!?」と感動しました。ラムを飲んだのは、決して初めてではなかったのですが、感動したのは初めての経験でした。選んでくれたマスターのセンスがよかったのでしょう。

 その時に、もう1本、マスターが取り出したのが、イギリス「ブリストル」のラム。最近増えているボトラーズラムですが、当時では珍しく、見た目はシングルモルトのよう。飲むと、さっきのラムとはまったく違う味わいで、ラムが持つ幅の広さにびっくりさせられました。

 それ以降、食い入るようにラムを覚えて、すっかりラムにハマっていきました。シングルモルトで味わっていた挫折感を、ラムが取り返してくれたんですね。

──ラムに目覚めた海老沢は、まだ見ぬラムに出会いたい一心で、ボトルの収集を始める。以後、23年間かけて集めたボトルは6000本にも達した。

 いちばん古いのは、1890年代にボトリングされた「セント・ジェームス」です。たぶん、僕は死ぬまで開ける勇気がないと思いますので、結局は、他の誰かが飲んじゃうんだと思いますが(笑)。

ラムは日陰で発達してきた酒なんです

──一方で、集めたビンテージラムから見えてきたのは、表舞台で主役を張ってきたウイスキーとは違い、日陰の脇役として発達してきたラムの歴史だという。

 例えば、第二次大戦中は、イギリスからアメリカ向けのウイスキー輸出がストップしてしまう。そこで、アメリカに近いカリブの島々から、大量にラムが入っていく。ラムはウイスキーの代用品として売れたんですね。

 もともとラムは、奴隷に与えるアルコールだったんです。サトウキビのプランテーションで働く奴隷の気付け薬ですね。カリブ海の島々で生産する砂糖がヨーロッパに輸出され、莫大な富を生み出した三角貿易の時代に、サトウキビの副産物から生まれたラムが、盛んに造られるようになりました。

 面白いのは、プランテーションの農園主としてヨーロッパからやってきた移民が、自国の蒸留技術を持ち込んだことです。イギリスからの移民はスコッチウイスキーの、フランスからの移民はブランデーの技術です。だから、ラムもイギリス系、フランス系と分かれていきます。農園主も飲むようになり、奴隷貿易時代の中ごろから、ラムは酒として洗練されていったんです。

 ヨーロッパからカリブ海へとワインやビール、ウイスキーなどを運び、帰りの船は空き樽にラムを詰めていったところ、熟成して美味しくなった、という事情もありました。

 ラムには海軍や海賊など、船乗りが飲むイメージがありますけど、船では、士官はスコッチウイスキーを、水夫はラムを飲みます。ここでもラムは、日陰の存在だったんですね。

 でも、ラムのボトルには、帆船や船、黒人やプランテーション等にまつわるデザインが多くて、色々な歴史が見えてきますよ。カラフルなラベルの色遣いや印刷の風合いを見ていても、その時代、時代が感じられて飽きません。

カリブ海のほかにもクラフト蒸留所が続々

──歴史的には脇役として発達してきたラムだが、21世紀に入ってからは、すっかりそのイメージを払拭。女性たちの支持を集めたこともあり、表舞台に躍り出た感すら漂う。

 いま日本で手に入るラムは、一時期は600種類くらいあったのですが、最近は淘汰されて400種類くらい。代わってここ2~3年は、ボトラーズのラムが増えてきました。それもウイスキーボトラーズが手掛ける例が非常に多い。1樽だけ200本くらいをボトル詰めにして、売切れたらそれで終わり。そんな製品が次々に出てきます。

 たぶん、ウイスキーボトラーズの半分以上が、ラムを手掛けている印象ですね。彼らに聞いてみると決まって、「熟成蒸留酒のなかで、ウイスキーと同じように、産地や作り方によって明確な違いがあって、キャラクターが立っているのはラムだから面白い」という答えが返ってきます。ウイスキーが高騰したので、ボトラーズも、飲み手も、ラムの面白さに気が付いた、という面もあると思います。

──そして今、ウイスキーと同じように、クラフト蒸留所が、世界の各地に出現してきていると、海老沢はいう。

 ラムは、カリブ海が聖地だったんですが、インド洋に新しい蒸留所がどんどんできています。例えば、アフリカ大陸の東側にあるレユニオン島。バニラの産地として有名なフランス領の島ですが、すぐ近くのモーリシャスとともに、新しい蒸留所が増えています。

 この2つの島は、もともとサトウキビを生産しているんですね。大きな資本が入り、リゾート開発とセットにする形で、ラムをブランド化して売り出そうとしています。

 同じ流れは、東南アジアにもあります。インド、タイ、フィリピンといった国々は、もともとサトウキビを盛んに栽培していて、副産物してのラム造りもしてきました。しかし最近は、単なる副産物としてのラムではなく、いい酒として、いいラムを作りたいというプレミアム志向の蒸留所が出てきています。これから、クラフト蒸留所がどんどん増えていくでしょう。

──とはいえ、小さな蒸留所で造ればクラフトラムになる、というわけではない。縛りの少ない“自由な酒”であるがゆえに、クラフトの意義を浸透させていくには時間がかかる。

 課題は「クラフト」の考え方です。クラフトウイスキー、クラフトジンという考え方が、ラムにも飛び火したのですが、「クラフト」という概念が、ヨーロッパやアメリカには定着していても、インド洋やアジアのサトウキビ産地には、まだ、きちんと確立された概念がありません。

 原材料の選択や、それを使ってどんな個性を創り出していくのかをあまり考えずに、いまのところは、ただ仲間数人で好き勝手に造ってクラフトを名乗っているだけ、といった面が多々あります。

 カリブ海のマルティニーク島には、かつて100を超える小さな蒸留所がありました。それこそ、クラフトラムの島だったんです。それが、統廃合や淘汰の結果、いまは9つの蒸留所になっています。クラフトをやるのであれば、もう一度、小さな蒸留所を増やしていこうということですから、時間をかけてどんな風に変わっていくのか、そのプロセスがとても楽しみです。

守備範囲の広さは、スピリッツ類で断トツ

──ラムはずば抜けてバリエーションの多い蒸留酒でもある。それは、ラムの定義がきわめてシンプルなことに起因する。原料から製法、熟成まで、選択できる要素が、他の蒸留酒に比べて非常に多い。

 ラムの定義は、「サトウキビを原料とした蒸留酒」ということしかないんです。なので、とっても多種多様。まず、原料によって、大きく3種類。サトウキビの絞り汁から砂糖を取り出した後のモラセス(糖蜜)を発酵させて造る「トラディショナル」、サトウキビの絞り汁をそのまま発酵させる「アグリコール」、絞り汁を加熱して濃縮したシロップを使う「ハイテストモラセス」があります。

 次に、蒸留方法など製造の流儀によってイギリス系、フランス系、スペイン系の3大系統があります。さらに、蒸留後の熟成方法によって、ステンレスタンクで寝かせた透明の「ホワイト」から、大樽で寝かせた琥珀色の「ゴールド」、バーボン樽で3年以上熟成した濃い色の「ダーク」まで大まかな区分けがある。

 蒸留器が単式か連続式かでも違いますし、熟成中にバニラやシナモンなどを漬け込んだ「スパイスドラム」もありますので、それらを掛け合わせると、ほぼ無数の組み合わせがあり得るんです。

──バリエーションが多いだけに、ユーザーの好みや飲み方も幅が広く、それぞれにとって必ず美味しいラムがあると、海老沢はいう。

 これら複数の要素を掛け合わせたバリエーションの多さは、ほかの蒸留酒にはない特徴です。ホワイトラムは、ウォッカとかジンとオーバーラップしますし、ダークラムは、ウイスキーやブランデーと同じようなカテゴリーで見られます。

 最近では、熟成ラムに注目が集まっていて、シングルモルトウイスキーのファンが、ダークラムを楽しむのが、ごく当たり前になってきています。

 一方で、ホワイトラムはカクテルのベースとして、ものすごく飲まれている。いま世界的にカクテルコンペが流行っていますけど、カクテルブックを見ると、レシピの3分の1くらいに、ラムが入っているんですね。熟成とカクテルの2つの面から、いまはラムに光が当たっている時代だと思います。

 人によって、飲み方や味の好みはさまざまですけれど、どんな好みの人に対しても入り口がある酒、ということがラムの強みではないでしょうか。

いいラムには「まるさ」と「力強さ」がある


──ラムを飲む層が広がるにつれ、バーでの飲み方も変わってきた。

 実際、モヒートを入り口にした若い女性が、しだいにラムの魅力を知るようになり、最近はシェリー酒に似た熟成をする“ソレラもの”のダークラムをロックで飲むのがお気に入り──そんな光景は、バーのカウンターで毎晩見られます。

 あるいは、時おり、ショットでラムを飲んでいた人が、産地や製法に細かくこだわって飲むようになったりもする。自分はイギリス系が好きだとか、自分はフランス系アグリコールじゃなければだめ、とかね。

 ちなみに、アグリコールは、劣化が早いサトウキビの絞り汁をそのまま使うので、収穫時期にしか造れません。そのため、生産量が少なくて希少価値が高く、ファンも多いのですが、時間をかけて熟成されたトラディショナルもひけをとりません。どちらにも、それぞれの良さがあるんです。

──間口が広い酒であるために、評価のアプローチも色々とあり得るラム。表舞台でライトを浴び始めたタイミングで立ち上がるTWSCは、より広くラムを知ってもらい、より深くラムを理解してもらうチャンスだと、海老沢は考えている。

 個人的には、ラムのサトウキビらしい「まるさ」が好きで、やさしい甘み、豊かな香り、そしてバランスのよい力強さがあるのが、いいラムだと思っています。評価では、そこがどう表れてくるのか楽しみです。マニア受けするリミテッドなラムだけではなく、スタンダードなラムもきちんと評価される品評会にしていきたいですね。

(text=TWSC実行委員会)