• WHISKY & SPIRITSの現在
  • 「膨大な酒の記憶」に位置付ける
    私の評価方法は、それに尽きます

    TWSC審査員
    MHD モエ ヘネシー ディアジオ株式会社
    平井茂樹


    TWSC審査員
    MHD モエ ヘネシー ディアジオ株式会社
    ウイスキーエキスパート
    ロバート・ストックウェル

  東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)の審査員には、メーカーやインポーターのスタッフも参加している。酒の造り手、売り手ならではの高い評価スキルを活かすことで、より幅広く、より深い視点からの審査が行えるからだ。ブラインドテイスティングという、公平な審査方法を取り入れたメリットのひとつでもある。平井茂樹、ロバート・ストックウェルの両氏は、有名ブランドを数多く抱えるインポーターの所属。豊富な知識量と経験値で、酒の業界ではよく知られた存在だ。しかし、意外にも、その評価手法は対照的。それぞれ審査への姿勢、評価ノウハウについて語ってもらった。(文中敬称略)

「膨大な酒の記憶」に位置付ける
私の評価方法は、それに尽きます

──現在、平井は営業マネージャーとして、東京を拠点に飲食店の開拓やケアを担当。ロバートはシングルモルトのアンバサダーとして、一般消費者やプロを対象にした全国のセミナーを担当している。興味深いのはこれまでの経歴。単なる会社員の枠を超えた経験を、数多く積み上げてきたという。

 ロバート:私は、学校を出てから、ずっと酒にかかわる仕事をしてきました。ビールの醸造所に勤務したことがありますし、スコットランドの蒸留所で働いた経験もあります。蒸留所は、スペイサイド、ハイランド、アイランズ、アイラで、それぞれ1カ所ずつ。合計4カ所を経験しました。蒸留所ではあらゆる仕事をやりましたよ。マッシング(糖化)作業、蒸留、樽の管理・・・・ブレンディングラボで、ブレンダーをやらせてもらったこともあります。

 平井:私は、バーを中心に回ることが多いんですが、この仕事を始めてもう27年になります。シングルモルトは、日本では90年代半ばからブームが始まったんですが、それを創り上げてきた一人だと自負しています。早くからシングルモルトに取り組んでいたバーのオーナーたちと連携して、情報発信やイベントを仕掛けたりしてきました。

 90年代は、まだボトラーズものでも、オールドボトルでも安かったですからね。自社のものに限らず、死ぬほど飲みました。たぶん、シングルモルトを飲んだ量では、誰にも負けないと思います(笑)。なので、味の記憶があるんですね。同じ銘柄のスタンダードボトルでも、昔と今とでどう違うのか、といったことも分かりますよ。

──ウイスキーについて経験豊富な二人だが、これまでにコンペティションの経験はほとんどないという。

 平井:20年くらい前に、1度だけ、イギリス大使館で開かれた品評会に参加したことがあります。ブラインドテイスティングだったのですが、意外にも、飲み慣れているはずの身近な酒を再評価しましたね。あれっ、こんなに旨い酒だったっけ、と。比較対象があることで、普段は意識しない良いところに、あらためて気付かされるんです。

直感先行型か、ロジック重視型か

──二人とも、仕事柄、テイスティングを行う機会は多い。しかし、そのスタイルは実に対照的。本人たちは、「右脳派と左脳派なんです」と笑う。

 平井:まずファーストインプレッションですね。ノージングで香りを確かめ、口に含んだ瞬間の直感を大事にします。端的に言えば、旨いかどうかですよね。その後で、なぜそう感じたのか、なにがこの旨さを作っているのか、香りや味を細かく分析しながら、評価を肉付けしていきます。

 次に、ファーストインプレッションが、どう変化していくのかも大きなポイントです。飲んでいるうちに、空気に触れて変化することがあるんですね。あっ、これはいい感じに変わったね、と印象が違ってくる。どう変化していくのか、最初の印象から次の印象へ、その過程も非常に大事なんです。

 ロバート:私はロジカルに進めるタイプですね。ブラインドテイスティングでは、事前に酒の情報はありませんから、まず、グラスを振るビーディングでアルコール度数の見当をつけます。それから色をしっかり見ます。くすんだ色なのか澄んだ色なのか。どんな樽で、どのくらい熟成したんだろうか、とか。

 いきなりグラスに鼻を突っ込んで刺激を与えると、その後の鼻の利きが鈍くなる可能性がありますので、先に十分な観察をして、それからゆっくり香りを嗅いでいきますね。

 香りに、どんな要素が入っているのかは、細かく探っていきます。リンゴの香りがするなら、それは青リンゴなのか、デリシャスなのか。柑橘類の香りだったら、グレープルーツなのか、みかんなのか、オレンジなのか、といった感じです。結構、面倒くさいんですよ。(笑)

 加水しての変化も見ます。最初はストレートでテイスティングしてから、まず1滴、水を垂らしてみる。少しずつ水を加えていって、どのくらい加えるとバランスが崩れるか試してみます。酒と水が同量のトワイスアップまで行けるのか、ボディがしっかりしているので、さらに行けるのか。それが評価に直接結び付くわけではないんですけどね。まあ、趣味みたいなものです。

 平井:私は、そこまではしないなあ。水を数滴垂らすと、隠れている香りが出てくるので、それを見るくらい。アルコールの性質によっては、香りの成分が閉じているので、水を垂らすことで香りを開かせるんです。

 香りや味の要素を突き詰め、細かく分析していくのは、その道の専門家にお任せして、私がやっているのは、味わいを位置付けることでしょうか。これまで飲んできた膨大な酒の記憶がありますから、過去の記憶と比較しながら、その酒のポジショニングを探っていくんです。

どんな酒でも美味しさの頂点は一緒です

──ところで、どんな審査員にも個人的な好みはあるはずだ。評価するにあたって、審査員は、個人的な好みと客観的な採点とを、どう整合させているのだろうか?

 平井:そう聞かれると、自分の好みで採点してます、としか言いようがなくなってしまいますけど(笑)。私は技術者ではありませんし、むしろ“プロの飲み手”として審査するんだと思っています。なので、どうしても主観は入ってきますよ。

 ただ、ぜんぜん好みじゃないけど美味しい酒だね、と判断することはないと思います。美味しさって、1点に集まってくるんですよ。例えば、塩、しょうゆ、あご出汁、とんこつ・・・・と色々なラーメンがあって、私は、あご出汁が好みだとします。じゃあ、とんこつラーメンは美味しいと思わないかといえば、絶対にそんなことはありません。

 美味しければ、とんこつでも、塩でも、しょうゆでも、その美味しさは感じ取れるんです。入り口はたくさんあっても、たどり着く美味しさの頂点は一緒なんじゃないでしょうか。

 酒も同じことでしょう。とんがった個性の酒でも、まろやかさが際立つ酒でも、美味しい酒は、どちらも美味しい。完成された美味しさというのは、真ん中に集約されてくるので、そこはもう好みの範疇ではないと思います。

 ロバート:私は自分の好みより、まずガイドラインがどこにあるかを考えますね。例えば、ローランドウイスキーの評価をする時には、ローランドスタイルに合っているかどうかを見ます。基準に照らして、ローランドとして美味しい酒かどうかですね。

 熟成年数も、この年数にしては深みがあって美味しいとか、12年ものとしたらすごく美味しいんだけど、25年ものとしては物足りないとかね。そういった判断の仕方をします。もちろん、ブラインドテイスティングの場合であれば、こうした前提は分かりませんから、ある程度、表面から読み取れる要素と、香味に対する主観的な評価だけになりますよね。

先入観のない、本当の実力が見えてきます

──今回のTWSCでは、大規模なブラインドテイスティングならではの、見えてくるものが期待できると、平井はいう。

 平井:世間の評価とは違う、本当の実力が見えてくると面白いんじゃないでしょうか。いま、オールドボトルが人気になって、当時は2万円だったものが、プレミアムが付いて6万円になっていたりします。でも、中身は2万円の酒ですよね。決して、6万円の味がするわけではありません。

 同じように、ウイスキーブームが盛り上がる中で、人気があって高い価格で売られているけど、中身が見合っていない酒があるかもしれません。希少価値だけで、高い値付けをしている酒もありそうです。TWSCは、先入観が入る余地のないブラインドテイスティングです。だからこそ、行き過ぎた評価が是正されるいい機会じゃないでしょうか。

──さらに、大規模な「ウイスキー&スピリッツ品評会」が、日本で開かれることに意味があると、ロバートはいう。

 ロバート:ウイスキーの世界で、完全に日本がメジャーになってきたということだと思います。ジャパニーズウイスキーを造るだけではなく、ウイスキーマーケットとして、日本は世界のトップレベルになった。TWSCの開催は、それを世界に伝える大きなメッセージになるんじゃないでしょうか。

 平井:ただし、1回だけじゃ意味が薄いですよね。毎年継続していって、存在感が出てこそ、価値があるんだと思います。そのためには、運営側、出品側、審査員・・・・関係者全員が参加しやすく、持続可能な仕組み作り、環境作りが大切だと思っています。

(text=TWSC実行委員会)