• WHISKY & SPIRITSの現在
  • 日本初の「ウイスキー&スピリッツ品評会」が
    世界最高レベルを狙える、これだけの理由

    TWSC実行委員長
    ウイスキー文化研究所代表
    土屋 守

 東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)の実行委員長を務めるのは土屋守。ウイスキーに関する執筆、評論活動をはじめ、ウイスキー文化研究所を主宰し、イベント、セミナー、資格認定、出版、オリジナルボトルの企画、等々、ウイスキーに関する多彩な活動を展開してきた。その土屋は、長い間、日本におけるコンペティション(品評会)開催の必要性を痛感してきたという。なぜ日本なのか、なぜ今なのか、TWSCへの思いを語った。(文中敬称略)

海外で品評会の審査員をしてみて、
「ちょっと違うなあ。日本でなら・・・」って
思ってしまったんです

──土屋が日本でもコンペティションを開きたいと思った最初のきっかけは、審査員として海外のコンペに参加した際に、品評会としての評価の質や運営方法に疑問を持ったことだったという。

 2013年に、アジアで初めて開かれたスピリッツコンペティションに、審査員として参加したんです。ワインのコンペで知られているベルギーの団体が、10年くらい前にスピリッツ部門を立ち上げて、毎年、世界各地で開催していたのですが、それが台湾の高雄で行われたんですね。

 世界各地から出品されたスピリッツが510銘柄。それを40人くらいの審査員で採点していく。アジアでの開催なので、審査員にはアジアの専門家も入ってほしいということで、私にも声がかかりました。審査員は、日本からは私も含めて3人が参加し、あとは台湾の人が数人、残り8割が欧米人という構成でした。

 ところが、見たところ、その欧米人の審査員の中にウイスキーの専門家が少ない。しかも、1チーム6人、合計6チームで審査をしていくのですが、私のチームにはウイスキーの審査が回ってきませんでした。3日間で50~60アイテムは審査したというのに、1アイテムもです。私は、ウイスキーの専門家として参加を要請されたはずだったのですが・・・

 コンペが公正に行われ、個々の出品アイテムに正確な評価がなされるためには、審査員のチーム分けや、審査してもらうアイテムを考え抜き、適切に配置する必要がある。それ以前に、専門性の高い、きちんとした審査員を数多く集めることが必須条件です。そのどちらもできてないなぁ、自分たちなら、もっときちんとしたコンペが開催できるのではと、その時に感じました。もちろん、採点基準の作り方とか、ブラインドテイスティングのやり方、審査員をチーム分けして進めていく仕組みとか、学んだことも多かったのですが。

実は、コンペは主催者と出品者の共同作業なんです

── その時の土屋の実感が、数年を経て今回のTWSC開催へと結実していく。そもそも、ワインをはじめ世界中で数多く開催されている酒・食品のコンペティションには、純粋に味や品質を競い合う趣旨からは外れているものが少なくない。実質的に生産者団体が主催し、箔付けに金賞を量産するようなコンペすらある。スーパーマーケットで安売りされているような低価格ワインに、金賞の受賞マークがいくつも付いていたりするのは、このためだ。

 世界にはさまざまなコンペティションがありますけど、その源流をたどると、19世紀の博覧会に行き着きます。お酒に限らず、色々なものが博覧会に出品され、何らかの審査を経たうえで、いいものには賞が与えられる。そうした中には、過去1世紀以上にわたって数百もの賞を取り続けている製品すらある。

 コンペの本質には、もともと販促的な意味合いが含まれています。生産者はコンペに出品し、評価がよければ“賞”というお墨付きを得て、以後の販促に役立てていける。だから、賞の選定基準をゆるくして、なるべく賞を取りやすくしたコンペも、私はアリだと思っていますし、そのほうが魅力的だと考える出品者もいるでしょう。

 つまりコンペとは、主催者と出品者との共同作業なのです。両者にとってWin-Winの関係が成立するのであれば、どんなコンペでもあり得ますよね。われわれが日ごろ雑誌の企画でやっているような、ウイスキーを買ってきて、テイスティングで採点・評価する、といった一方からだけのアプローチとは、本質的に違うものなんです。

 そして今回のTWSCでは、このWin-Winの関係をギリギリまで突き詰めていきたいと考えています。高い専門スキルを備えた審査員たちが、ブラインドを始めとした審査ノウハウを駆使して公平かつ厳正な審査を行い、誰が見ても公正で納得いく結果を導き出す。そこで獲得した賞は、ほかのコンペでとったどの賞よりも価値がある──それが実現できれば、TWSCにとっても、出品者にとっても究極のWin-Winではないでしょうか。

世界のウイスキーを飲んでるのは日本人だけですよ

──そして、最高のコンペティションを実現していくのに、日本ほどの好条件が揃っている国はない、と土屋はいう。

 スコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダ、そして日本。世界5大ウイスキーと呼ばれる生産地で、日本ほど特異なエリアはありません。例えば、スコットランドで、地元の人々がスコッチウイスキー以外のウイスキーを飲むことは、まず考えられません。スコットランド人は、たとえ隣国のアイリッシュ・ウイスキーであっても、他の地域のウイスキーを飲もうとはしないし、知ろうともしません。それは、アイルランドでも、アメリカでも、カナダでも同じことです。

 ところが、日本だけは違う。自国でウイスキーを生産しながら、世界中のあらゆるウイスキーをジャパニーズ・ウイスキーと同じように販売し、同じように消費している。こんな国はありません。加えて、日本人のモノ作りの精神と勉強好きな性格がある。世界中のウイスキーやスピリッツを研究し、販売し、飲んで、それらを知悉しているのは、日本人しかいないんです。日本でコンペティションを開くことの意味は、まさにそこにあります。

 今回、TWSCには、バーテンダー、生産者、流通関係者、ジャーナリストなど、スキルの高い審査員180人をお願いしています。みんな日本人なのですが、10年、20年とウイスキーやスピリッツと付き合い、経験値や知識を積み重ねてきた専門家の層の厚さは、やはり日本ならではです。仮に、同じようなコンペをスコットランドで開くとすると、現地のバー関係者で名前が挙がるのはせいぜい10人~20人くらいでしょうか。ウイスキーやスピリッツを評価するのには、そのくらいスキルが求められるんです。

── 2019年3月に第1回目の審査が行われるTWSC。土屋の希望は2018年スタートだったが、準備が間に合わず、2019年スタートにずれ込んだ。長年温めてきた構想を、この時期に具体化したのは、実は東京オリンピックを意識してのことだという。とはいえ、お祭り騒ぎに便乗しようというわけではない。

 日本のバーは、間違いなく世界のトップレベルです。いまは世界的なカクテルブームで、世界中のバーが新しいカクテルを流行らせようと頑張っている状況ですが、その中にあっても、伝統的なカクテルを作る腕前は、日本のバーがトップレベル。それだけの腕前を持つバーテンダーの数の多さも、トップレベルでしょう。

 しかも、ウイスキーについていえば、モルトウイスキーを1000種類も2000種類も揃えたような、モルトウイスキーに特化した、いわゆるモルトバーは、もともと日本にしかなかったもの。ここ10年くらいの間に香港やシンガポールで、同じような形態のバーが現れてきましたけど、日本のモルトバーはすでに30年くらいの歴史があります。

 ですから、日本のバーは、質・量において現在も世界の最高水準を保っています。東京オリンピックを機に、日本を訪れる外国人に、ぜひそのことを知ってもらい、体験してほしい。同時に、日本がウイスキー&スピリッツの情報発信源として、世界から注目されるようにTWSCを育てていこうと思っています。

将来は、スピリッツとしての焼酎もカバーしたいんです

── コンペティションが認知され、定着するには時間がかかる。目の前の準備を一歩ずつ積み重ねながらも、将来に向けての構想は膨らんでいく。

 10年後、世界中のウイスキーやスピリッツの造り手が、TWSCでの受賞を誇りに思ってくれる。そうなるためには、何をしなければいけないのか。審査員にはどんな人が必要なのか、審査員の組み合わせはどうあるべきなのか、出品銘柄の組み合わせや審査順はどうすればいいのか、採点システムはどんな方法がベストなのか。いま1つ1つを詰めているところです。コンペとしてのプレステージを上げていくには、これから回を重ねてノウハウを蓄積していくことが不可欠だと考えています。

 将来的に、ジャンルに加えたいのはジャパニーズ・スピリッツ。すなわち焼酎です。日本開催で、しかもコンペティション名に「スピリッツ」を名乗る以上は、ジャパニーズ・スピリッツが入ってくるのは当然でしょう。むしろ、こうした一元的な審査体制のもとで、泡盛や黒糖焼酎も含めた焼酎というジャンルが、どういう評価を受けるのか、非常に楽しみなところです。

(text=TWSC実行委員会)