2022-09-07
スコッチ【0284夜】チャールズ・エドワード・スチュワート~王として生まれた君よ③
一次退却を決めたジャコバイト軍は再び北を目指してダービーを出発した。年が明け、春になったら再び独立を目指して南下すればよい。ジャコバイト軍はそう思っていたが、ここでハイランド兵の思わぬ弱点が露呈する。進軍する時は勇猛果敢で死をも恐れぬハイランド兵だが、一端退くと決めると帰心矢の如くで、その気持ちに歯止めがきかず、我先にと散り散りになってしまったのだ。
彼らの郷里や家族に寄せる想いは、他のどの民族より強く、一度その想いに火がつくと、誰も止めることが出来ないのだという。戦いは退く時が一番難しいと古来から言われるが、まさにこの時のジャコバイト軍がそうで、追撃に移った政府軍によって各地で敗戦につぐ敗戦を喫してしまった。
それでもふたたび態勢を整えた反乱軍と、追撃した政府軍(この間に政府はカンバーランド公爵を中心とする大規模な軍隊を組織していた)との間で最後の決戦がおこなわれたのが、翌1746年4月16日のこと。決戦の場所はインバネスの近くのカローデンの地であった。このカローデンムーアの戦いは、イギリス本土で行われた最後の戦いとなったが、決着はわずか25分でついたという。結果は最初から明らかだったが、数で圧倒的に優位だった政府軍の大勝利に終わった。
チャールズ王子は泣く泣く戦場を後にしたが、その首には3万ポンドの巨額の賞金がかけられた。それから5ヵ月に及ぶ王子の逃避行は数々の物語や歌にも唄われたが、最終的に上陸した場所と同じモイダートの入江から、救助にかけつけたフランス船に乗って無事フランスに逃げのびたという。
しかし失意の王子に安住の地はなく、その後ヨーロッパ各地を点々とし、1788年にローマで客死している。享年68。生涯独身を通した王子に子はなく、400年近く続いたヨーロッパ屈指の名門スチュワート王家の滅亡とともに、スコットランド独立の夢もまた、永遠に潰えてしまったのである。
チャールズ王子の逃避行を助けたフローラ・マクドナルド。 一覧ページに戻る