2022-07-07
スコッチ【0273夜】アルフレッド・バーナード/ウイスキー界のバイブルとは~その①
たとえば釣りの世界では、アイザック・ウォルトンの『釣魚大全(Complete Angler)』がバイブルと言われ、釣り師としてこの本を知らないのは恥ずべきこととまで言われるが、ウイスキーの世界でバイブルと呼ぶことができる本があるとすれば、アルフレッド・バーナードの『英国のウイスキー蒸留所』(The Whisky Distilleries of The United Kingdom本邦未訳)をおいて、他にはないだろう。
この本は1887年にロンドンで初版が発行されている。当時イギリスで操業していたすべての蒸留所を訪れ、その詳細をレポートしたもので、その数はスコットランドで129蒸留所、アイルランドで28(当時はアイルランドも英国の一員)、イングランドで4の合計161蒸留所にもおよんでいる。総ページ数500ページ近くの大部な書物で、ところどころに蒸留所の姿を描いた銅版画が使われていて、内容もさることながら、当時の蒸留所の様子を知ることができるたいへん貴重な資料となっている。
161の蒸留所のなかで、現在も操業を続けているのは59蒸留所しかなく、残りはすでに過去のものとなってしまった。とくにアイルランドやキャンベルタウンの蒸留所については、バーナードのこの本でしか、当時の様子を知ることができないものも多い。初版がどれくらい印刷されたか分からないが、その後100年近く、一度も増刷されていないところを見ると、あまり評判にならなかったのだろう。
それでも1969年と87年に、別の出版社から再版されているが、これらもすでにマーケットから消えている。1987年の版は初版刊行100年を記念して、エジンバラで再版されたが、現在では古本市場でも探すのが困難である。ましてやオリジナルの初版本は完全なる稀覯本で、欧州の古書マーケットではたいへんな高値がつく。現在一般に流布しているのは、2000年にドイツで出版された第4版と、2008年にスコットランドで刊行された第5版である。(つづく)
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