2022-07-01
スコッチ【0268夜】スコットランドはフランスに肩を並べるチーズ王国!?~その①
スコットランドは厳しい気候風土ゆえに、チーズ作りには不向きと考えられていた。しかし乳牛などの品種改良や技術革新により、チーズ産業は近年めざましい発展を遂げている。もともとスコットランドにチーズがなかったわけではない。ただ生産量が限られていて、ほとんどが農家の自家消費用であった。古いタイプのチーズのなかにはレシピが失われてしまったものもあり、近年再びそのレシピを復活させ、手作りチーズがたくさん作られるようになっている。「やがてフランス産チーズと肩を並べるだろう」と、豪語する専門家もいるくらいだ。
そのスコットランド産チーズの代表格が、カボックとクローディ、そしてダンロップなどである。カボックは牛のミルクから作られる伝統的なソフトチーズで、トーストしたオート麦が表面にまぶしてある。濃厚なバター風味とオート麦のナッツのような風味が混ざりあった美味しいチーズで、スコットランドの食後のチーズ皿には欠かせない。レシピは古くからあり、15世紀に「島々の王」――マクドナルド家の娘マリオッタ・デ・イルが作ったとされる。「島々の王」、ロード・オブ・ジ・アイルズは、ヘブリディーズ諸島のアイラ島にその統治の拠点を置いていたので、カボックもアイラ島が起源だろうといわれている。マリオッタ・デ・イルの「イル」とはアイラ島のことだ。
クローディも牛のミルクから作られるソフトチーズで、8世紀にヴァイキングがスコットランドに伝えたとされている。ゲール語ではグルス(Gruth)である。やや酸味のあるチーズで、パンやオーツケーキなどに塗って食べる。ダンロップは南西スコットランドのエアシャー種の牛のミルクから作られるハードチーズで、ジェームズ2世の時代(在位1685~89年)に、バーバラ・ギルモア婦人によって作られたとされる。もとのレシピはアイルランドにあり、彼女がアイルランドに巡礼した際に、土地の農家から教えてもらったのだという。ダンロップというのは、バーバラ婦人が住んでいたエアシャーの村の名前で、18世紀から19世紀にかけて、スコットランドを代表するチーズとなった。
ダンロップというと、どうしてもタイヤを連想してしまうが、タイヤを発明したジョン・ボイド・ダンロップ氏(1789~1874年)も同じ村の出身である。6ヵ月間熟成をさせるのがダンロップの特徴で、マイルドで甘味があり、今ではイギリス中で愛されている。
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