2022-06-26
スコッチ【0263夜】カクテル名にもなっているアソールブロウズって何のこと?
アソールブロウズのブロウズとはオートミールの粥のことで、ポリッジと違って水のように薄い粥のことをいう。ただしこれはお粥として食べるわけではない。アソールブロウズとはハイランド地方の伝統的な飲料(?)、あるいはデザートのことだ。名前の由来は1475年に遡る。ハイランドきっての名門貴族アソール公爵が、実際この料理で長年の宿敵であったロス侯爵をまんまと捕らえたというのだ。ロス侯爵は用心深い男であったが、ある日会食に招かれ、そうとは知らずにこのアソールブロウズを飲み干し、不覚にも寝入ってしまった。後は想像どおり井戸に投げこまれ、殺されてしまった。以来、アソール家ではそのレシピを秘伝としてきたという。
材料はオート麦とヘザーハニー、それにもちろんウイスキー(ウシュクベーハー)である。まずはオート麦をじっくり煮込んでペースト状になったところで火から下ろし、次にこれをストレーナーなどで漉しとる。使うのは漉しとった後の液体(オート汁とでもいうのだろうか)のほうである。これに蜂蜜を加えてよく混ぜあわせ、空のボトルに3分の1ほど詰め、しかる後にウイスキーを加えてボトルを満たし、栓をする。つまりウイスキーとオート汁の比率は、ウイスキー2に対してオート汁が1である。こうして作り置きしておき、食事に供する前によくシェイクして出すのだという。飲物の場合にはそのままグラスに注ぐが、デザートにする場合は生クリームでトッピングし、お好みでローストしたオート麦をその上に散らす(うーん、イメージしづらい…)。
じつはアソールブロウズという古いカクテルがこれと別に存在し、カクテルブックには「スコッチウイスキー1.5オンス(約45ミリリットル)、透明な蜂蜜1.5オンス、生クリーム1.5オンス」とある。カクテルのアソールブロウズは飲んだことがあるが、アソール家秘伝のデザートは食べたことがない。あるいは飲んだことがない。
それにしても、もしこの伝説が本当だとすれば、スコッチの歴史を書き換えなければいけない。というのは、スコッチが文献上に初めて登場したのは1494年のことで、アソールブロウズのほうは、それよりも約20年も昔に作られているからだ。伝説の料理の味もさることながら、私には、そのことのほうが興味深いのだが。
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