2022-06-18
スコッチ【0257夜】アラビアのローレンスと白バラの謎
ウイスキーとは直接関係はないが、大好きなバラにまつわるミステリーをひとつ。それはアラビアのローレンスと白バラの謎だ。
アラビアのローレンスことT・E・ローレンス(1888~1935年)の生涯は謎に包まれている。ローレンスはオックスフォード大出の青年考古学者だった。テーマはヒッタイト文明の研究で、第一次大戦が勃発すると、アラブに関する知識を買われてカイロのイギリス陸軍情報部に配属された。当時アラビア半島はトルコに支配されていて、トルコと手を結んだドイツ軍の東進政策を阻止することが、イギリス軍の急務であった。そのためアラブ独立運動の支援と、トルコ軍の攪乱がローレンスに与えられた任務であった。アラビア半島をトルコの支配から解放するためにローレンスが作戦指揮したのが、史上名高いアカバの攻略とダマスカス侵攻である。
歴史的事実はともかく、名優ピーター・オトゥールが演じた映画『アラビアのロレンス』をご覧になった方も多いだろう。黄金色に輝く雄大な砂漠をバックに、颯爽とラクダを乗りこなすローレンス。アラブの伝統服、純白のローブに身を包んだオトゥールの姿がなんとも格好よかった。アラブ独立の英雄として一躍ヒーローとなったローレンスであったが、祖国イギリスに戻ってからの行動は謎に包まれている。二度まで偽名を使って空軍と陸軍に入隊したことも謎だが、ローレンスの人生における最大の謎は、彼の死にまつわるミステリーだ。
ローレンスが自ら運転するバイクで事故を起こしたのが1935年の5月13日。よく晴れた日の朝の出来ごとで、運転に長けたローレンスにとって、転倒事故をおこすような要因は何ひとつなかった。にもかかわらず、ローレンスはその事故から6日後に帰らぬ人となってしまった。当時からローレンスの死については自殺説、暗殺説などが取りざたされたが、現在に至るまでその謎は解明されていない。
白バラのミステリーというのは、毎年彼の誕生日(8月16日)になると、墓前に『T・Eを偲んでAD2020』というメッセージとともに、白いバラの花束が届けられたことだ。始まったのは1974年のことだったというが、そのバラの本数は毎年一本ずつ減っていて、2020年になるとゼロになる計算だったという。贈り主は匿名のニューヨーカーだというが、正体は不明で、「AD2020」の意味することは何なのか、2020年になればローレンスの死の謎が解けるということなのか、人々の間で話題となった。ローレンス・ファンにとって興味深かったが、1994年に突然、ニューヨークからの注文は途絶えてしまったという。ローレンスの死と同じように、この白バラの謎も残されたままなのだ。
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