2022-06-17
スコッチ【0256夜】スコットランドの国民食ハギスとは~その②
ハギスについての続きだが、ハギスはフランス語のハック、「切り刻む」という単語が語源で、古くは羊ではなく鹿の内蔵を使ったのだという。ホグマニー(スコットランドの大晦日を祝う行事)やバーンズナイトなどの特別な行事にはハギスが欠かせなく、どこの家庭でもこのときはハギスを食べる。もっとも各家庭で作ることはあまりなく、今では肉屋などで出来あいのものを買ってくるのが一般的だ。暮れから1月にかけて、スコットランドの肉屋やスーパーでは、ショーウィンドーに、このハギスを吊るして売っている光景をよく目にする。ただ本物の胃袋を使うことは今となっては稀で、ほとんどは合成皮革か、その代用品に詰めて調理をしている。
ちなみにホグマニーも語源はフレンチノルマン語で、「新年を迎える」という意味だという。スコットランドがフランス文化の影響を強く受けていることが、このことからもよく分かる。バーンズナイトというのはスコットランドの”国民詩人”ロバート・バーンズ(1759~96年)の生誕を祝う行事のことで、バーンズの誕生日である1月25日前後に行われる。バーンズについては以前にも紹介したが、この日にハギスを食べるのは、バーンズがこよなく愛した郷土料理だったからだ。“Address to a Haggis”、「ハギスに捧げる歌」という有名な詩も遺している。以下はその抄訳――
お前の心根と、にこやかな笑顔に神の御恵みあれ。
腸詰一族の大首領よ!一族郎党の上に、お前はどっかと収まっている。
(中略)
あわれな者よ! ハギスを知らないで、外のものを旨いと言って食べている奴を見よ。(その手足は)しなびた燈心草のように頼りないではないか。
(中略)
それにひきかえ、ハギスで育った田舎者を見よ――
ふるえる大地も、そいつの足音で鳴り響く!
(『スコットランドⅪの謎』東浦義雄著より抜粋)
…ここまで褒め讃えられたら、ハギスも本望かもしれない。ハギスを食べずしてスコットランドを去るなかれ、である。ちなみにバーンズナイトの際にハギスにシングルモルトをかけて食べるのは、バーンズ時代(18世紀後半)にはスコッチのブレンデッドウイスキーはなかったからだ。
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