2022-06-14
スコッチ【0253夜】スコットランドの国花、アザミの花の伝説
イングランドのバラ、スコットランドのアザミ、アイルランドの三つ葉のクローバー、そしてウェールズの水仙――これは何だかご存知だろうか? じつはそれぞれの地域(国)を代表する花(植物)のことである。イギリスはイングランド、スコットランド、北アイルランド、ウェールズの4つの国からなる連合王国だ。それぞれセントジョージ、セントアンドリュー、セントパトリック、セントデイビッドと、守護聖人が異なっている。イングランドの国花がバラであるのはわかるが(英王室を象徴する花がバラ)、他の3つについてはどうだろう。
アイルランドを象徴する三つ葉のクローバーはシャムロックと呼ばれ、これは守護聖人セントパトリックがキリスト教の教義である三位一体の教えを説くのに用いたからだという。ウェールズの国花については水仙ではなくリーク(ポロネギ、太ネギ)だとする説もあるが、どちらも守護聖人セントデイビッドと関係している。3月1日のセントデイビッド・デーにはリークと黄色のラッパ水仙(まだ蕾の状態)を親しい人に贈るのが習わしとなっている。では、スコットランドの国花アザミはどうしてだろう。
西暦9世紀から13世紀にかけて、スコットランドはヴァイキングの脅威に曝されていた。修道院や教会、町や村がヴァイキングによってことごとく略奪・破壊され、当時まだ弱体だったスコットランド王国はそれによって疲弊し、王権そのものの存続もしばしば危機に陥った。そのヴァイキングの脅威から解放されたのが、1263年のラーグスの戦いであった。
ラーグスの戦いはノルウェー王ホーコン4世率いるヴァイキング船団と、スコットランド王アレクサンダー3世(在位1249~86年)率いるスコットランド軍との間で行われた。この時ホーコン4世が放った奇襲部隊が、夜間にアザミの花を踏んで悲鳴をあげてしまった。そのため奇襲がスコットランド軍の知るところとなり、結果的にアレクザンダー王の大勝利となったという。以来スコットランドではアザミは国を救ってくれた花として大切にされ、スコットランド王家の副紋章、そして国花として現在に受け継がれているのだ。
ちなみにこのアザミは日本で一般的なアザミでなく、長さ3~4センチの太い刺があるオニアザミの仲間である。さしものヴァイキング戦士も、あまりの痛さに耐えかねたのだろうか。
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