2022-06-10
スコッチ【0249夜】ハリエニシダとシャクナゲの仁義なき闘い…
イギリス固有の花はたかだか百数十種類で、それに対して現在栽培されている花は2,000種近くあるという。考えてみれば、イギリスのガーデンは帰化植物だらけだ。これは何も植物に限ったことではない。動物についてもいえること。一番有名なのがリスのケースである。
ロンドンあたりの公園に行くと、どこでも愛くるしいリスの姿を目にすることができる。人間にも実によくなれていて、平気でナッツを手からもらってゆく。公園ばかりでなく住宅街の木々にも棲んでいて、ロンドン郊外のわが家の庭にもよく遊びに来たものだ。ところがこのリス、灰色リスはまったくの外来種である。イギリスにはもともと赤リスが棲んでいて、昔はリスといえば赤リスのことを指していた。ところが北米大陸から灰色リスが侵入してきて、次々と赤リスのテリトリーを奪っていったのだ。現在では赤リスの姿はスコットランドの山奥か、湖水地方の森などでしか見られなくなった。そういえばビアトリクス・ポターの『リスのナトキンのはなし』は湖水地方が舞台で、あれは赤リスが主人公だった。
このテリトリーの奪い合いは植物の世界にも存在する。最近注目されているのが、スコットランドのハリエニシダとシャクナゲの関係である。データ的にどうなのか分からないが、私がスコットランド通いを始めて30年くらいの間に、ハイランドの道路脇に咲くシャクナゲの繁みがあきらかに広がっている気がする。かつてはハリエニシダしか生えないような場所に、シャクナゲの紫の花をみかけるようになった。ハリエニシダもシャクナゲも帰化植物で、ハリエニシダは今から2,000年くらい前にローマ人がもたらしたというが、今では野生化して4月から5月にかけて、イギリス中の原野を埋めつくす。ヤマブキ色の花が鮮やかで、空気までが黄色に染まるかのようだ。
それに対してシャクナゲは中国・雲南省あたりが原産地。18世紀から19世紀にかけて、プラントハンターたちによって中国、東南アジアからもたらされた新参者だが、またたく間にイギリス全土に広がった。ともに酸性土壌を好むことから、とくにハイランドの痩せた酸性大地に、いつの間にか野生種としてはびこってしまった。かたや2,000年に対して、一方はまだ200年…。勢力分布はこれからどう変わってゆくのだろうか。
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