2022-06-01
スコッチ【0240夜】オートミールは馬の食べ物!?~その①
スコットランドの朝食の定番といえばキッパーズだと書いたが(0239)、もう1つ欠かせないのがこのポリッジだ。イングランドの朝食はオレンジジュースとシリアル(コーンフレイクなど)で始まるが、スコットランドの場合は温かいポリッジで始まるのが正しいとされる。ポリッジとはオートミールの粥のこと。オートミールはひき割りにしたオート麦のことを指すが、アメリカでは粥のこともオートミールという。日本でもポリッジのことをオートミールというのは、アメリカの影響だろうか。イギリスでは、スコットランドも含め、オートミールではなくポリッジというのが一般的である。
現在では朝食の定番のように思われているが、かつてはスコットランドの主食のひとつでもあった。ロバート・バーンズの代表作である「小屋住みの土曜日の晩」(The Cotter’s Saturday Night)には、夕食の光景として、「されども今や夕食が其の簡単なる食卓の上に運ばれる。スコットランドの食物の中、最も美味なる健康に宜しき粥なり」と、謳われている。原文は“But now the supper crowns their simple board, The healsome parritch, chief o Scitia’s food”(『バーンズ詩集』中村為治訳・岩波文庫より)で、自らも貧しい小作人であり、農作業のかたわら詩作に励んだバーンズらしい表現と言えなくもない。ポリッジは当時parritchと綴られていたのだろう。
もっとも、これには伏線がある。18世紀を代表するイギリスの文人、サミュエル・ジョンソン博士は自ら編纂した辞書(“Dictionary of the English Language” 1755)のなかで、オート麦をこう定義してみせた。『オート麦、イングランドでは馬に与えるが、スコットランドでは人がこれを主食となす』
今だったら差別発言ととられかねないが、博士の弟子で、伝記作家でもあるスコットランド人のボズウェルは、すかさずこうやり返した。『だからイングランドの馬は優秀で、スコットランドでは人が優秀になる…』(つづく)
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