2022-05-21
スコッチ【0229夜】見て楽しい!? 百花繚乱、奇妙奇天烈なスチルたち
クラフト蒸留所を回る楽しみは様々なポットスチルに出合えることかもしれない。かつてスコットランドの蒸留所のスチルはフォーサイス社か、アバクロンビー社のどちらかしかなかった。フォーサイスはスペイサイドのローゼス町に100年ほど前に創業した会社で、30年くらい前まではガレージのような小さな工場にすぎなかった。当時の仕事は、たまに舞い込む修繕の仕事がほとんどで、新規にスチルの注文が入ることは滅多になかった。1970年代後半から続く長い不況で、新規蒸留所のオープンが一軒もなかったからだ。
アバクロンビー社は旧DCL社の子会社で、今でもそうだがディアジオ以外の蒸留所の注文を受けることはほとんどない。こちらも不況で開店休業状態が長く続いていた。それがミレニアム以降の蒸留所ラッシュで、どちらも拡張に次ぐ拡張を図り、フォーサイス社は職人80名近くを抱える巨大な工場へと変貌を遂げた。それでも注文して2~3年待ちという状態が続き、急増するクラフト蒸留所の要望に応えられなかった。もちろん納期だけでなくお金の問題もあったが、その間スコッチやアイリッシュのクラフトが頼ったのが海外のスチルメーカーだった。
もっとも安く、てっとり早く手に入ったのがポルトガルのホヤ社製で、これは既製のスチルだがサイズが揃っていて、十分それで間に合った。ストラスアーンやエデンミル、そして日本の長濱蒸溜所などのスチルがこれである。そこに参入してきたのがドイツのアーノルド・ホルスタイン社やクリスチャン・カール社、コーテ社、そしてイタリアのフリッリやバリソン社などだった。特にホルスタインやバリソン社はジンやスピリッツ用のハイブリッド蒸留器に優れたものが多く、クラフトジンやクラフトスピリッツを造る小さな蒸留所が相次いで導入するケースが増えていった。
クラフトの要望が多様化するに従ってこれらのメーカーは、造り手とコラボしながら新たな仕組み、形状にも柔軟に対処していった。その典型例がブリュードッグの旧ローンウルフ蒸留所で、その初留釜は、よりリフラックスを起こしやすいようにバルジが3つ重なった、まるで串ダンゴのような形をしていた。なかには独自の改良、仕組みを付け加える者もいて、アイリッシュのウエストコーク蒸留所では、奇妙キテレツなスチルを自分たちでゼロから作るということも始めていた。ウイスキーではないが、アイラ島のブルックラディのジン用スチル、「アグリーベティ」も独特だ。これはかつてのローモンドスチルを改造したものである。
とにかく今のクラフト蒸留所のポットスチルは千差万別、百花繚乱といった感じで、見るだけでも訪れる価値があるし、見ていて楽しく、そして飽きないのだ。
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