2022-05-10
スコッチ【0218夜】アードベッグで一緒に釣りをしたマイケル・ヘッズ氏
アイラ島の蒸留所の仕込水の湖で釣りをする──こんな夢のような釣りを実現させてくれたのが、アードベッグのマネージャー、マイケル・ヘッズ氏だった。マイケルさんとは、彼がラフロイグの職人をやっていた頃からの知り合いで、親しく話をするようになったのは、ジュラ蒸留所のマネージャー時代だった。ジュラ島に行くたびに案内役をかってくれ、いろいろな話をするようになったが、そんなマイケルさんが釣り好きと知ったのは、彼がアードベッグの所長になってからだった。
天気の良いある日、マイケルさんが住む所長宅の玄関先のベンチに腰をかけ、海を見ながら話していた時のことだ。なにげに「この辺りで釣りをしたら面白いだろうな…」と呟くと、俺は自分のボートを持っていて、よく釣りに行く。ちょっと沖に出ればポラックやコッドが釣れると、マイケルさん。コッドは真鱈のことで、ポラックはスケソウ鱈の仲間だ。マイケルさんが釣りをするとは、その時まで知らなかったが、それからは釣人同士、ウイスキーそっち除けで、すっかり釣り談義になってしまった。その時に海釣りの道具は持ってきていないが、フライフィッシングの道具を持ってきていると言うと、「じゃあ、明日アリナムビースト湖に釣りに行こう!!」。ということになった。
アードベッグの仕込水は4~5kmほど山を登ったウーガダール湖がよく知られるが、そこへは1時間半以上かかってしまう。アリナムビースト湖はかつてアードベッグのピートを掘っていた場所で、そこに自然と水が溜まり現在は湖となっている。もちろん黒褐色をしたピートの湖である。釣れるのは天然のブラウントラウト。体長20センチほどと大きくはないが、茶色の魚体に朱色の斑点があり、宝石のように美しい。釣り方はフライフィッシングで、黒系の伝統的なウェットフライ(毛針)を使う。
蒸留所からは歩いて20分ほどの距離だったが足場が悪く、湖の周りは湿地帯となっていた。その日はマイケルさんが勤務時間中のこともあり、わずか1時間ほどの釣りだったが、数匹のブラウントラウトを釣ることができた。「今度はゆっくり来ればいい。時間があればウーガダール湖も面白いし、船はメンテナンス中だが、直ったら海釣りにも行こう」と、マイケルさん。
その約束が果たせないまま、2020年秋にマイケルさんはアードベッグの所長をリタイアしてしまった。いつかまた、一緒に釣りをする夢は叶うだろうか。リタイア後のマイケルさんの予定は聞いていない。 一覧ページに戻る