2022-05-07
スコッチ【0215夜】初めてのアイラ、マードォとの出会い~その①
初めてアイラ島に行ったのは1989年の10月下旬のことだった。当時私はロンドンで日本語情報誌『ジャーニー』の雇われ編集長をしていた。「日本人はゴルフとウイスキーに興味があると聞いたが、招待するからぜひうちのホテルに来てくれ」。編集部にかかってきた、一本の電話がきっかけだった。
電話の主は、アイラ島でマクリーホテルを経営するマードォ・マクファーソン氏。当時私はシングルモルトの取材を始めたばかりで、蒸留所にはまだ行ったことがなかった。とりあえず釣りができることを確認して、マードォの招待を受けることにした。マクリーホテルには18ホールのチャンピオンシップコースがあるとマードォは力説していたが、当時の私の興味は釣りで、ゴルフにはまったく興味がなかった。「釣りがしたければゴルフ場の横を流れる川ですればよい。フリーだ、金はかからない」。その言葉を信じてロンドンを後にした。イギリスの釣りのシステムは複雑で、ライセンスや遊漁料などが細かく規定され、無料というところはほとんどない。だから、その言葉は私にはありがたかったのだ。
ロンドンからグラスゴーまで飛行機で飛び、アイラ島までは双発プロペラ機に乗って行った。ゲール、ガストと呼ぶ嵐の日で飛行機はジェットコースターのように揺れたが、なんとか無事にアイラの空港に降り立った。空港といってもカマボコ型の小さな建物が1つあるきり。緯度の高いスコットランドの10月は日が暮れるのも早い。4時を過ぎたばかりだったが、辺りは漆黒の闇。横殴りの雨が叩きつけ、右も左も分からない。闇の中からニュッと姿を現したのが、電話の主のマードォだった。まるで人さらいか何かのように、ランドローバーの車内に私を押し込めると、挨拶もそこそこにホテルに連れて行かれた。(つづく)
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