2022-04-29
スコッチ【0208夜】三度蘇った伝説の男、ジムさんの新たなる挑戦~その①
アイラの伝説、いやウイスキー界のレジェンドといえば、この男をおいて他にはいないだろう。元ボウモア蒸留所のマネージャーで、ブランドアンバサダーだったジェームズ・マッキューワン氏、通称ジムさんだ。伝説には事欠かないが、ジムさんは典型的なアイラ人、“イーラッハ”(ゲール語でアイラ人の意)だった。独立心が旺盛で茶目っ気たっぷり。よく「我々の隣人はアメリカだ」と言って、アメリカ全土にセールス行脚に出かけていたものだ。人口3,400の小さな島の住人だが気宇壮大。どんなに大国だろうが、どんなに偉い人だろうが、いつも対等だった。
そんなジムさんが心を痛めていたのがボウモアの対岸にあるブルックラディの荒廃だった。閉鎖(1995年)になってから年々錆びれてゆく。このままでは蒸留所が消滅しかねない…。独立瓶詰業者のマーレイ・マクダビッド社と組んでブルックラディの買収に動いたのが2000年で、2001年の5月に蒸留所は見事に蘇った。それからのブルックラディは、まさにジムさんの真骨頂。次から次へとユニークなボトルをリリースし、世界中のファンを虜にしてきた。
アイデア満載のニューボトルだけではない。アイラの大麦にこだわり、テロワールという概念をもたらしたのもジムさんたちで、そのため農家を説得して牧草地を大麦畑に変換してもらった。ジムさんたちが説得するまで、アイラでは100年以上にわたって大麦は栽培されていなかった。それが今では20を超える農家がジムさんたちに賛同し、ブルックラディ用の大麦を作っている。
ジムさんが惜しまれながら引退したのが2015年。16歳でボウモアに入って、50年という節目の年だった。ボウモア、ブルックラディでやりたいことはすべて成し遂げ、誰もが本当にリタイアしたと思っていた。ところが2018年にアイラ島に新しく誕生した、アードナッホー蒸留所の、統括責任者になったことが後に知らされた。伝説の男の“伝説”たるゆえんであり、ジムさんのウイスキー人生の、新たな章の始まりだった。(つづく)
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