2022-04-27
スコッチ【0206夜】アイラで生まれたケルト民話集~その①
アイラ島のボウモア町からポートアスケイグに向かう幹線道を走っていると、インダール湾の奥の高台のところに石のオベリスクが立っているのに気づく。これが「イアン・オグ・イラ(Iain Og Ile)」、ゲール語で“アイラの若きイアン”といわれたジョン・フランシス・キャンベルを記念した石碑である。
ジョン・フランシスは当時のアーガイル公キャンベルの従兄で、1821年にアイラで生まれ、ゲール語を話す乳母に育てられた。キャンベル家は当時のアイラの領主で、キンタイア半島のインバレアリーに城を構える大貴族である。ウイスキーの世界では、キャンベルタウンモルトの生みの親と言ったほうが分かりやすいかもしれない。キンタイア半島の先端の町をキャンベルタウンと呼んだのは、アーガイル公キャンベルの土地だったからで、ニシン漁で栄えていたキャンベルタウンが衰退していたのを、それに替わる産業としてウイスキー造りを奨励し、今日のキャンベルタウンモルトの礎を築いたのが、アーガイル公キャンベルだったからだ。
それはともかく、アイラ生まれのジョン・フランシスはイギリスの名門イートン校を出たのち、エジンバラ大学で法律を学び、法廷弁護士としても活躍した。しかし彼の名前を有名にしたのはアイラ島を中心にヘブリディーズ諸島、アーガイル地方、西ハイランドで民話を採集し、それを『Popular Tales of the West Highlands』という、民話集全4巻として出版したことである(1862年)。今日これはゲール語民話の第一級資料として高く評価され、ドイツのグリム兄弟による『グリム童話』に比肩しうるともいわれるほどなのだ。
そのジョン・キャンベルの偉業を称えるために建てられたのが、丘の上にたつ記念のオベリスクだったのだ。(つづく)
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