2021-12-27
ジャパニーズ【0198夜】大倉喜八郎と井川蒸溜所~その②
広大な井川(いかわ)の森を購入した大倉喜八郎は、その森林資源を活かすために、製紙業に進出し、東海パルプという会社を興している。その東海パルプの後進が、現在の特種東海製紙で、同社の南アルプス事業部が2020年4月に分社化し、設立したのが十山株式会社である。そしてそこが2020年7月にオープンさせたのが井川蒸溜所だった。
井川蒸溜所は標高1,200メートルの、大井川源流域の木賊(とくさ)地区に建てられた。プランニングから製造機器を担当したのが、三宅製作所で、マッシュタンから発酵槽、スチルに至るまですべて三宅製である。工程にそってマッシュタンや発酵槽、ポットスチルが配置され、それを建物の2階の通路から見おろせるようになっている。つまり、見学者を想定したつくりで、将来的にビジターに開放予定なのだ。
それにしても、なぜ十山という社名を付けたのだろうか。そう思って質問したところ、返ってきた答えが、特種東海製紙が所有する社有林の中に、3,000メートル級の山々が10座あるからだという。その10山とは間ノ岳(あいのだけ)、悪沢岳、赤石岳、農鳥岳、聖岳、荒川三山などで、間ノ岳は標高3,190メートルで、これは富士山、北岳に次ぐ、日本第3位の高峰である。数え方にもよるが、日本には26の3,000メートル級の山々があり、そのうちの10山が、なんと特種東海製紙の社有林の中にあるというのだ。
そう聞いても山に詳しくないとピンとこないかもしれないが、大学時代、探検部で山をやっていた私には、その凄さがよく分かる。北アルプスの槍ヶ岳や穂高岳、南アルプスの北岳、甲斐駒ヶ岳、千丈などに登ったことはあったが、同じ南アルプスの間ノ岳、農鳥、赤石、悪沢、聖は一度も登ったことがない。アプローチが長く、山に入るまでに丸一日、縦走にはヘタをすると一週間近くかかってしまうからだ。そもそも井川蒸溜所まで、静岡市街から車で5時間近くかかる。それも半分以上が未舗装の林道で落石も多く、さながらアドベンチャーワールドそのものなのだ。しかも後半1時間半は特種東海製紙の私道で、車内で工事用ヘルメットを着用しなければならないのだ。おそらく世界で一番行きにくい場所にあるが、この井川蒸溜所だろう。
発酵槽。 ストレートヘッドのポットスチルが2基。 ラック式5段の熟成庫。一番上の段にはまだ樽が積まれていないようだ。10山の麓で眠る原酒が、数年後どのような風味のウイスキーになるのか楽しみである…。 一覧ページに戻る