2021-12-15
アメリカン【0189夜】テネシーいちのモテ男、ジャック・ダニエル~その②
ジャックが家出したもうひとつの理由は、ダニエル家が当時借金を抱え、生活に窮していたことも理由だったという。晩年になってもジャックは家出の本当の理由を語ろうとはしなかったが、フェリックスはジャックを自分の息子のように遇した。そんなジャックに転機が訪れたのは7 歳の時である。同じリンカーン郡で農業を営むダン・コールと知り合い、ダンの誘いで彼の農場に移り住むことになったのだ。
ダンは当時17 歳だったが、数百エーカーの農場と、雑貨屋、さらにラウスクリークに蒸留所を持っていて、リンカーン郡で一番将来を嘱望される青年であった。また、ダンには、ルーテル教会の牧師という、もうひとつの顔もあった。ジャックはダンからウイスキー造りと商売を習い、ダンの妻のメアリーから読み書き、算術を習った。7 歳のこの時まで、ジャックは字の読み書きができなかったのだ。“レストレス・ボーイ”、休みを知らない少年と仇名されるほどジャックは活動的な少年で、片時もじっとしていることがなく、蒸留所や雑貨店、農場を走り回って、貪欲にあらゆるものを吸収していった。
次に転機が訪れたのは1859年、13 歳の時である。当時全国的に禁酒運動が盛んになりつつあったのと、ダンが牧師に専念するため、ラウスクリークにあった蒸留所を手放すことを決意したのだ。ジャックは、わずか13 歳でダンの蒸留所を買い取り、自らがオーナーになることを決意。当時は、今から比べて早熟だったとはいえ、13 歳というのは驚きである。6 歳で一人の男として生きることを決意したジャックにすれば、十分大人になっていたのかもしれないが、これは大いなるギャンブルでもあった。すぐに南北戦争が始まり(1861 ~ 65 年)、世情も不安定で、激動の時代を迎えつつあったからだ。しかしジャックはその環境を逆手にとり、南軍、北軍両方にウイスキーを売って歩いたという。本来、軍に直接酒を売る行為は禁止されていたが、軍が一番ウイスキーを欲していることを、ジャック少年は見抜いていたのである。軍もおちびさんで愛嬌のあるジャックは、重宝な存在だったのだろう。うまく立ち回ることでジャックは莫大な富を手にすることができたのだ。(つづく)
7階建ての縦長の建物の中には蒸留機が入っている。 ビアスチルとダブラーがセットになったスチル。 ジャックダニエルでは、ウイスキー造りに適しているといわれるケイブスプリング(洞窟からの湧水)を使用している。 一覧ページに戻る