2021-11-27
ジャパニーズ【0183夜】竹鶴が書いた幻のボーネス日記
竹鶴政孝の「竹鶴ノート」については、広く世に知られているが、「ボーネス日記」については、ほとんどのウイスキーファンも、その存在を知らないのではないだろうか。竹鶴がキャンベルタウンのヘーゼルバーン蒸留所で実習したのは1920 年2月から4月までの3ヵ月間だが、それ以前にロングモーンとボーネスで実習を受けたことは、竹鶴ノートの中に、「エルギンとボーネスについては、すでに本社に報告済み」と出ていることから、竹鶴が何らかの形で報告書を作成し、それを摂津の岩井喜一郎宛てに送っていたことは想像できる。現に「エルギン日記」の存在は確かめられているし、私もその現物を余市蒸溜所で目にしていた。しかし「ボーネス日記」の存在は知られていなかったし、誰も見たことがなかったはずだ。
NHK の朝の連続テレビ小説『マッサン』の放送が始まって1ヵ月後の2014 年10 月に取材で余市に行く機会があった。その時に展示されていた「竹鶴ノート」と「エルギン日記」を、直接見せてもらった。もちろん、どちらも竹鶴の下書き用ノートで、摂津酒造に提出されたものではない。エルギンで書かれたノートを手にした時に、その下にもう1冊の古びたノートがあることに気がついた。(エルギンのノートは2冊あるのか…)そう思って手にしたノートを見ると、最初のページに「連続式蒸留機によるウイスキー製造 ボネーズ工場に於ける実習報告1919」と書かれているではないか。ボネーズはもちろんボーネスのことである。
「竹鶴ノート」で知っている、あの達筆の文字ではなく、書きなぐったような乱暴な文字で、本文も漢字、仮名まじりではなく、漢字とカタカナまじりの読みにくいスタイルだ。しかも下書きなので、何度も線を引いて訂正や書き足しをしている。その場では判読できないので、無理を言って、後日コピーを取って送ってもらった。それを判読し、現代文・現代表記に改め、『Whisky World』の誌面で紹介したのが2015 年5月のことである。
ついに幻と思われていた「ボーネス日記」を発見した。その時は興奮したがヘーゼルバーンの「竹鶴ノート」に比べると、やはり実習期間が3週間と短かったせいなのだろう、そのノートには、これはという話は出てこない。ただボーネス蒸留所ではトウモロコシと裸麦、大麦麦芽の混合レシピのほかに、裸麦と大麦麦芽のみのレシピもあり、それでグレーンウイスキーを造っていると書かれている。その比率は前者はトウモロコシ41%、裸麦30%、麦芽29%となっているが、そもそもこの裸麦とはどんな麦なのだろうか。トウモロコシはアメリカ産と書いているが、この裸麦とは麦焼酎で使う丸麦のことだろうか。今でも疑問として残っている。
こちらがボーネス日記の下書き…。 一覧ページに戻る