2021-11-13
スコッチ【0175夜】ディック・フランシスの長編小説『証拠』
(0174)でグランドナショナルのポスターを紹介したが、200年近いナショナルの歴史には数々のドラマが残されている。もっとも有名なのが1956年のレースで、当時、障害レースのリーディングジョッキーとして人気を集めていたのが、ディック・フランシス。ディックは1920年ウェールズ生まれで、小さい時から競馬の騎手を目指し、当初は平場レースのジョッキーを目指したが、体が大きくなりすぎたため20代で障害レースのジョッキーに転向。1953年から57年まで、クィーンマザー、エリザベス皇太后のロイヤルジョッキーとして活躍した。クィーンマザーはスコットランドの大貴族出身。現イギリス女王、エリザベス2世の母君である。ちなみに女王が戴冠したのは1952年。英王室のメンバーが競馬好きであるのは、よく知られた話。というよりイギリスでは競馬は、上流階級のステイタスでもあるのだ。
ディック・フランシスがクィーンマザー所有のデボンロック(Devon Loch)号に乗ってグランドナショナルに出場したのは1956年のこと。1~2番人気で、予想どおり途中からブッチギリとなり、30個目の最後の障害を跳んで、後は直線のみという時に、ゴール手前50メートルの所で突如停止、脚を投げ出し腹這いになってしまった。当然レースは敗退…。
これは世界の競馬史上最大の謎といわれる事件だが、今もって原因は判らないとされる。ディック・フランシスは翌1957年にジョッキーを引退。その後、新聞の競馬担当記者となったが、1962年から小説家に転身。競馬を題材にとった数々の推理小説を発表し、世界的なベストセラー作家となった。日本で翻訳出版をしたのはハヤカワで、邦題を漢字2文字というスタイルにし、多くのフランシスファンを生んだ。登場人物の名前・職業は作品ごとに変わるが、1984年に発表された(毎年1作品ずつ発表)のが『Proof』(邦題「証拠」)という小説で、これはしがない酒屋のおやじが主人公だった。プルーフは、証拠とアルコール度数のプルーフをかけたもので、天才的な鑑定能力を持つ主人公が、フェイクボトルを暴いていくというストーリーだった。たしか、そこに登場していたのがラフロイグだったと思うが、記憶が定かではない…。興味のある方はぜひ。
1984年に発表された『Proof』。同じ表紙のものをAmazonで調べてみると、電子書籍版が見つかったが、どうやらこれは英語版のみのようだ。 一覧ページに戻る