2021-11-03
スコッチ【0169夜】南極で発見された100年前のウイスキー~その③
このシャクルトンのボトルは科学的な分析も行われ、思わぬ事実が次から次へと判明した。分析の結果、これはインバネスのグレンモール蒸留所の熟成年の異なる複数の樽をヴァッティングしたものだということが分かった。もちろん、今日でいうシングルモルトである。使用された樽も、アメリカンホワイトオークのシェリー樽。当時バーボン樽はまだ一般的ではなく、スペインのボデガが輸出用として詰めた、シェリーのホグスヘッド樽だっただろうと推測された。さらに驚くべきことに、フェノール化合物の分析結果から、麦芽の乾燥の際に用いたピートがインバネス産ではなく、遠く離れたオークニー諸島のイディー島産であることも分かった。
中身の科学的分析・調査と並行してレプリカボトルの味の再現が、パターソン氏によって進められた。100年前のグレンモールの味を再現するためには、シングルモルトでつくることは不可能だった。グレンモール蒸留所自体が1983年に閉鎖され、今は建物すら存在しない。そこで集められたのがダルモアやグレンファークラス、マノックモア、タムナヴーリン、グレンロセス、プルトニー、ベンネヴィス、ジュラといったモルトウイスキーだった。骨格はダルモアやジュラの長熟モルトが担い、フローラルでフルーティな風味はスペイサイドモルトが一役買った。心地よいピート香は、一番の悩みどころだったというが、これは最終的にヘビリーピートのダルモアが担ったという。
こうして完成したマッキンレーズのレプリカボトル、「レアオールド・ハイランドモルトウィスキー」は、2011年に全世界で5万本が販売された。1本100ポンドの値段のうち5ポンドが、ニュージーランドの南極ヘリテージトラストに寄附されることになっていた。このボトルは1年ほどで完売し、25万ポンドが南極の保護活動のために寄附された。これが第一弾である。そして2012年秋、第二弾のレプリカボトルがパッケージも中身も変え、今度は全世界10万本限定で発売された。もちろん1本につき5ポンドの寄附金が南極トラストに払われることは、前と同じである。(つづく)
当時の南極と探検隊の様子。 ヴィジェイ・マルヤ氏。 ウイスキーの鑑定を行ったのは、かの有名なリチャード・パターソン氏だ。 一覧ページに戻る