2021-11-02
スコッチ【0168夜】南極で発見された100年前のウイスキー~その②
レア・オールド・ハイランド・モルト・ウイスキーは分かるが、MLは何だろう。MLは当時好んで使われた「モルトリカー」の略で、このウイスキーは驚いたことにブレンデッドではなく、モルトウイスキーであった。当時モルトウイスキーだけをボトリングすることは、あまり一般的ではなく、そのためブレンデッドだろうと推測されていたのだ。
中身についての調査・分析が行われたのはスコットランドである。そのため3本のボトルが、飛行機でグラスゴーに送られることになった。ただし普通の旅客機でカーゴとして運ぶわけにもいかない。そもそも南極で発見されたものは、南極以外に持ち出してはいけないという国際協定がある。カンタベリー博物館に持ってきたのも、特例措置だった。それをさらにグラスゴーに運ぼうというのだから、運搬方法について慎重に協議が重ねられた。
その時登場したのが当時マッキンレーのブランド権を所有するホワイト&マッカイ社のオーナー、インド人のヴィジェイ・マルヤ氏だった。彼は『フォーブス誌』の長者番付にも載るインドの億万長者で、自家用のジャンボジェット機も持っている。シャクルトンの3本のウイスキーを運ぶために、その自家用ジェットが提供され、保冷装置のついた特製バッグに入れられた3本のウイスキーは、クライストチャーチからグラスゴーに運ばれ、さらに陸路で、ホワイト&マッカイ社の研究室がある、北ハイランドのインバーゴードン蒸留所に運ばれた。2010年秋のことである。
ウイスキーはコルク栓が打たれており、その上から鉛でシールド加工されていた。コルク栓を抜くわけにはいかないので、特殊な注射針でシールドの上からコルクに突きさし、中身のウイスキーを慎重に吸い上げた。それをグラスに入れて“鑑定”を行ったのが、当時ホワイト&マッカイ社のマスターブレンダーを務めていたリチャード・パターソン氏である。103年ぶりに外界に取り出されたウイスキーは、意外なことにフレッシュなリンゴやパイナップルのような瑞々しいアロマがあり、穏やかなピート香がバランス良く包み込んでいたという。(つづく)
"Great Adventurers(偉大なる冒険者)"アーネスト・シャクルトン。 レアボトル第2弾の付録になった写真たち。当時の南極や探検隊の様子などを垣間見ることができる。 一覧ページに戻る