2021-09-11
スコッチ【0157夜】ロスリンチャペルのトウモロコシの謎
ロスリンチャペルの石の彫刻については0156でも紹介しているが、実はこの中に昔から謎とされてきたものがある。それは柱の天井付近にトウモロコシが彫られていることだ。トウモロコシは北米大陸原産で、ロスリンチャペルが建てられた1446年当時、ヨーロッパには知られていない。コロンブスがアメリカを「発見した」1492年以降、次第にヨーロッパにも知られるようになったというのが定説だ。つまりチャペルが建てられた時には、イギリス、それも北方のスコットランドで知られるはずがなかったのだ。なのに、どうして。
実はアメリカはコロンブスが到達する500年近く前に、ある民族によって発見されている。それが、当時アイスランド、グリーンランドに居住していたヴァイキングだ。アイスランドの首都レイキャビクに行くと、象徴ともいえる大きな教会の前に、A.D.1000年頃にアメリカに到達したといわれるレイフ・エイリクソンの像が建っている。いわばヴァイキングの英雄で、彼がグリーンランド経由で現在のカナダ、そしてアメリカ北部に到達したというのだ。レイフの一団はそこでひと冬を越し、気候が温暖でブドウが穫れることから、そこを「ヴィンランド」と名付けた。その後ヴァイキングの植民が行われたが、この移民計画はやがて失敗に終わり、ヴァイキングはグリーンランド、アイスランドに引き揚げてしまった。そのことは、ヴァイキングの歴史書・サガに残され、後世に伝えられている。
私がアイスランドに行ったのは1992年のことだが、その年はヨーロッパでもアメリカでも、コロンブスのアメリカ発見500年祭に沸いていた。しかし、アイスランドだけは「アメリカを発見したのは自分たちの祖先」と、大々的にヴァイキングイベントを開催していた。それはともかく、オークニー伯のシンクレア家は、まさにアメリカに到達したヴァイキングの末裔。サガの中で、当時ヨーロッパで知られていなかった北米のトウモロコシを知っていた可能性が大いにあるのだ。
コロンブスの500年前にアメリカを発見したレイフ・エイリクソンの像。寒い地域のイメージが強いヴァイキングだが、その活動範囲は広く、実は地中海などにも進出して自分たちの国を建国していたりもするのだ。 アイスランドはヨーロッパ屈指の温泉大国で、首都レイキャビク近郊のブルーラグーンは特に有名だ。 一覧ページに戻る