2021-09-03
スコッチ【0153夜】ピクトの地名が付いた唯一の蒸留所~ゲール語ことはじめ②
蒸留所とゲール語の謎解きをしてきたが、ロッホ(湖)やベン(山)と同じか、それ以上に多いのが、アバー、アードと付く蒸留所だと前回(0152)紹介した。アバーは川の落ち合い、合流点、あるいは河口のことで、この地名はスコットランド各地に見られる。同様の意味を持つ言葉がインバーで、前者が付く有名な町がアバディーンで、後者が付くのがインバネスである。アバディーンはドン川の河口にある町で(古くはアバードンといわれた)、インバネスは有名なネス湖の下流、ネス川の河口にあることからインバネスである。ところが不思議なことにインバーと付く蒸留所は、稼働蒸留所は1つも存在しない。グレーンの蒸留所としてはインバーゴードンがあるが、モルト蒸留所は閉鎖されたインバリーブンだけである。インバーはアバーよりも大きな川で用いられることが多く、それらの河口には都市が開け、モルト蒸留所としては定着しなかったのだろう。アバーはアベラワー、アバフェルディ、アベラルギ―など、どれも小さな川の河口に位置している。
アードは岬、小丘の意味だが、これが付くものとしてはアードベッグ、アードモア、アードナッホー、アードナマッハンがある。前2者のベッグ(ベグ)とモアは共に形容詞で、ベッグが小さい、モアが大きいである。したがってアードベッグで「小さな岬」、アードモアで「大きな岬、小丘」の意味だ。ところでスコットランドにはゲール族がやってくる前に、同じケルト系のピクト族という先住民が住んでいた。謎のピクトストーンや、ブロホと呼ばれる円筒形の要塞などで知られる民族だが、不思議なことに彼らが付けた地名というのが、数えるほどしか残っていない。そのうちの1つがピティと頭に付く地名で、これは「ピクト族の集落」のことだとか。このピティが付く蒸留所というのは現在稼働中のものは1つもない。かろうじて閉鎖蒸留所にピティヴァイクがあるが、それも1993年に閉鎖され、現在は建物も残っていない…。
「小さな岬」アードベッグ蒸留所。スコットランドの先住民ピクト族については、『0075 バルブレアと謎のピクト族、ピクトシンボル‐その①』で、2夜にわたって紹介している。 一覧ページに戻る