2021-09-02
スコッチ【0152夜】最も多い「峡谷」という名の蒸留所~ゲール語ことはじめ①
スコットランドの蒸留所は地名がそのまま蒸留所名となったものがほとんどだ。地名は日本でもそうだが、先住民族が付けたものも多く、その土地の文化や歴史と密接に結びついている。スコットランドの地名の多くはケルト民族の一派であるゲール族が付けたもので、英語とはまったく異なっている。蒸留所名にどう発音してよいか判らないものが多いのは、そのせいだ。ゲール語の地名でよく見かけるのが、グレンやストラス、そしてベンやロッホなどだ。グレンはゲール語で「狭い谷」を意味し、ストラスは「広い谷」のこと。ベンは「山」で、ロッホは「湖」、あるいは「内海」のことである。
私の最新刊である『完全版シングルモルトスコッチ大全』(小学館)には稼働蒸留所127ヵ所、閉鎖蒸留所23の合計150の蒸留所(モルトウイスキー)が取り上げられているが、そのうち最も多いのがグレンと付く蒸留所で、稼働・閉鎖合わせて33の蒸留所が頭にグレン、「狭い谷」と付いている。特にスペイサイドに多く、かつてスペイサイドの山奥の峡谷に隠れて密造酒を造っていた時代の名残が、蒸留所名からもうかがい知ることができる。反対に、ストラス、「広い谷」と付くのは、ストラスアイラ、ストラスミル、ストラスアーンの3つだけである。グレンはそれこそグレンリベット、グレンフィデック、グレングラント、グレンマレイなど枚挙にいとまがない。
グレン、ストラスに次いで多いのがベンと付く蒸留所で、これはベンネヴィス、ベンリネス、ベンリアック、ベンローマックの4つ。さらに閉鎖蒸留所としてベンウィヴィスがある。意外と少ないのがロッホと付く蒸留所で、これはロッホローモンド、ロックランザの2つしかない(閉鎖されたロッホサイドを入れても3つ)。それ以上に多いのが、アバー、アードと付く蒸留所で、これはゲール語でそれぞれ「河口、落ち合い」、「岬、丘」といった意味がある。前者の代表格がアベラワーなどだが、それは次回で。(つづく)
イギリス最高峰の名前を取ったベンネヴィス蒸留所。 グレングラント蒸留所。スペイサイドは密造酒時代の一大産地だった。 一覧ページに戻る