2021-08-25
スコッチ【0146夜】飲んでいいのはオバンだけ!?
旧UD社(現ディアジオ)のクラシックモルトシリーズについては、何度も紹介してきたが、そのうちの1つ、オーバンについては忘れられないエピソードがある。私の『モルトウイスキー大全』が出版されたのは1995年の12月のことだが、その直後の96年1月に、女優の檀ふみさんと対談したことがある。確かカード雑誌の巻頭インタビューのコーナーを檀さんが担当していて、毎回ゲストを招いて話を聞くというものだった。私が招かれたのは、大全をリリースしたばかりというのと、檀さんがお酒好きで、出始めたばかりのシングルモルトに興味を持っていたからだった。その対談の中で、「オバンというシングルモルトはありますか。私とサワコ(阿川佐和子)が飲んでいいのは、このオバンだけだと兄に言われて」と、檀さんから聞かれた。兄というのは檀太郎さんのことで、檀さんをオバンとは失礼なと思ったが、「それはオバンではなくオーバンという発音です」と、笑いながらお答えした。檀ふみさんは私の大好きな女優さんの一人で、当時はまだ30代である。
オバンではなくオーバンは1794年に創業した老舗蒸留所で、西ハイランドのオーバン港の中心に位置している。当初は小さな漁村(オーバンはゲール語で『小さな湾』の意)にすぎなかったが、町は蒸留所とともに発展し、今ではヘブリディーズ諸島の玄関口として、多くの人で賑わっている。ヘブリディーズに向かう多くのフェリーが、ここオーバンを起点としているからだ。蒸留所は町の中心の崖下に建てられているためスペースがなく、クラシックモルトの1つに選ばれているにもかかわらず、年間生産量は87万リットルと、ディアジオ傘下では2番目に小さな蒸留所である。そのため、すべての原酒はシングルモルト用で、ブレンデッド用には出荷していない。これは同社の蒸留所では唯一の存在となっているのだ。それにしても、オバンという読み方が定着しなくてよかったと思うのは、私だけだろうか。
町の中心の崖下に建てられているオーバン蒸留所。 旧UD社のクラシックモルトシリーズ。本シリーズについては、『0023 シングルモルトブームをつくったクラシックモルトシリーズ』で紹介している。 一覧ページに戻る