2021-08-08
スコッチ【0138夜】十字軍として参戦したブルース王の心臓
ロバート・ザ・ブルース王とアーブロース宣言については以前にも書いたことがあるが(0074)、1314年のバノックバーンの戦いでも、完全にスコットランドはイングランドから独立したとは言い難かった。一番の要因は王がローマ教皇から破門されていて、ヨーロッパ社会からはアウトロー扱いされていたからである。そこでバノックバーンから6年後の1320年に、ロバート王を支持するスコットランドの貴族らが署名入りで書いたのが、アーブロース宣言だった。悔い改めたロバートこそが、スコットランドの正当な王であると主張したのだ。結局、この嘆願書は教皇の認めるところとなり、晴れてロバートはヨーロッパ世界で独立国の王と認められたのである。
晩年のロバート王は敬虔なキリスト教徒となり、国内の治世が安定したら、十字軍として聖戦に出かけたいと望むようになった。しかし、その夢が果たせぬまま1329年にダンバートンで亡くなっている。その時に長年の盟友だったジェームズ・ダグラス卿に、「自分が死んだら心臓を取り出し、それを持って十字軍として戦い、聖地エルサレムを目指してほしい」という遺言を残したという。ダグラス卿は遺言どおり、王の心臓を銀の小箱に入れ、それを持って十字軍として参戦。ただしスペインのグラナダ地方の戦いで命を落としてしまった。銀の箱に入ったブルースの心臓は、その後スコットランドのローランド地方にある、メルローズ修道院に運ばれ、その庭に埋められたという。
ロバート王の遺体はファイフのダンファームリン修道院で埋葬されたが、長年この心臓については伝説にすぎず、その消息は不明と伝えられてきた。しかし近年になってメルローズ修道院の庭から発見され、伝説が真実であったことが確かめられた。鑑定の結果、その中には心臓(人間の体の組織)が入っていたことが確かめられたのである。同時にダンファームリンの王の墓も発掘され、これも鑑定した結果、伝説どおり心臓を切り取った形跡があったことが確かめられたという。
アーブロース修道院。修道院の中にはアーブロース宣言のレプリカが展示されている。 一覧ページに戻る