2021-08-03
スコッチ【0134夜】ツイード流域に誕生した“国境のウイスキー”とは
ツイード川でのサーモンフィッシングについては0133でも紹介したが、そのツイード川流域にも、かつてはいくつかの蒸留所が存在した。しかし、ニット産業が隆盛になるにしたがい、蒸留業は廃れてしまった。ツイード川の支流であるテビオット川の畔のホーイックの町で1826年に誕生したのが、ツイード織で、これはスコットランドのニット産業の代名詞ともなった。かつては数百の工場がツイード流域に軒をつらねていたというが、ニット産業とウイスキー産業に必要なことは、良質な水が大量に得られること。ツイード川はピート色の濃い軟水で、これがウイスキーも、ツイード織も、そしてサーモンも育んできた。
今はかつてほど工場の数は多くないが、カシミアを中心とする高級ニットの世界的なブランドは、このツイードに集まっている。バランタインやプリングル、ライル&スコット、ジョンストンズといったブランドは日本でもよく知られている。今でもカシミアの原毛の買付け、取り引きではツイード地方が世界をリードしているのだ。そのホーイックに2017年にオーブンしたのが、その名もボーダーズ蒸留所である。建物はかつてホーイックの織物工場に電力を供給していた電力会社のもので、それを改造して蒸留所としてオープンした。
ボーダーズを創業したのはスリースチルズ、3つのスチルという会社で、てっきりスチル3基で3回蒸留のウイスキーを造るのかと思ったが、それは違うという。3つというのはタイプの違うスチルのことで、1つは2回蒸留のモルトウイスキーを造るポットスチル、そして2つ目がジンやウォッカを造るカーターヘッドのスチル。3つ目が減圧蒸留器で、これでグレーンウイスキーを造るとしている。生産能力もモルトウイスキーだけで年間200万リットルと大きく、とてもクラフトと呼ばれるサイズではない。180年ぶりにツイードに誕生した蒸留所として、地元の期待を一身に背負っているのだ。
ボーダーズは、フォーサイス社製のスチルが4基。 流域一帯の産業、そしてサーモンを育ててきたデビオット川。 一覧ページに戻る