2021-07-29
スコッチ【0132夜】水素で動くスコッチ初の蒸留所
東京オリンピック・パラリンピックの聖火台の燃料はエネオスが提供する水素だということを、テレビCMで初めて知ったが、そういえばスコッチの蒸留所で水素を燃料としている蒸留所がある。ローランドのファイフ地方の、グレンロセス郊外に2015年にオープンしたインチデアニー蒸留所だ。水素を燃料といっても、それを動力にしているのではなく、ボイラーなどで、ガスに代わる燃料として採用しているのだ。もちろん、その目的は二酸化炭素排出抑制で、そのための補助金をイギリス政府から得て、スコッチ初の蒸留所としてチャレンジしているのだ。
インチデアニーは今までの伝統的なスコッチウイスキー造りとは一線を画す革新的な蒸留所で、まず原料の大麦からして春播きの二条ではなく、冬大麦を使う。さらにモルトウイスキーだけでなく、ライウイスキーや、オーツ麦(カラス麦)を原料としたオーツウイスキーも造っている。通常麦芽はローラーミルで粉砕するが、インチデアニーはあえてハンマーミルを導入し、麦芽以外の穀物にも対応している。糖化槽も通常のマッシュタンではなく、糖化と蒸煮が別々になった、ビールでよく使われる2槽タイプだし、麦汁の濾過は、これまた最新鋭のマッシュフィルターを用いている。これはもともとディアジオ社が開発したもので、アイリッシュでは新ミドルトン蒸留所と、ウォーターフォードで使っている。スコッチではインチデアニーとティーニニックの2つだけだ。
さらにポットスチルも、イタリアのフリッリ社製の特殊なスチルで、1基のハイブリッドスチルは“ローモンドスチル”と名付けられているが、本来のローモンドスチルではなく、インチデアニーの創業者、イアン・パーマー氏が開発した、インチデアニー独自のもの。ヘッド内部に数段のシーブトレイが入っていて、これ1基で90度近くまで、アルコール度数を上げることができるという。
水素といい、原料といい、マッシュフィルターからスチルまで、あらゆる新しいことにチャレンジしているのが、インチデアニーなのだ。
インチデアニー蒸留所の外観。 イタリアのフリッリ社製の特殊なスチル。 一覧ページに戻る