2021-07-28
スコッチ【0131夜】最も短命に終わった貴婦人
0130でガーヴァン・グレーンウイスキー蒸留所の中に併設されたアイルサベイについて紹介したが、実はここにはレディバーンというモルト蒸留所がかつて存在した。当時、巨大なグレーンウイスキー蒸留所内に、モルトウイスキー蒸留所が併設されることは、一般的なことだった。特にスコッチウイスキーが飛躍的に出荷量を伸ばしていた1950年代から60年代にかけて、相次いでモルトウイスキー蒸留所が、グレーン蒸留所の敷地内につくられた。
インバーゴードンの敷地内につくられたベンウィヴィスもそうだし、ストラスクライド蒸留所内にはキンクレイス、そしてモフアット蒸留所内にはグレンフラグラー、さらに少し時代が遡るがダンバートンのバランタインの工場には、インヴァリーブン蒸留所が併設された。もちろん、そのどれもが現在は残っていない。ボトルも今となっては完全に幻で、ベンウィヴィスもキンクレイスも、グレンフラグラーも、今ボトリングされたら、1本100万円は下らないだろう。中でも、最も稀少といわれるのが、ガーヴァン蒸留所内に1966年に創設されたレディバーンだ。
レディバーンは初留・再留2基ずつの計4基のスチルが稼働したが、親会社のウィリアム・グラント&サンズ社はスペイサイドにグレンフィデック、バルヴェニーを所有していて、レディバーンは当初よりブレンデッドの原酒という扱いだった。そのため生産も不定期で、しかも1975年にはグレーン設備の拡張で取り壊しにあっている。つまり存命期間は、わずか9年のみで、「最も短命に終わった貴婦人」と言われているのだ。それでも通常こうしたマイナーな蒸留所は、ボトラーズが樽を持っていたりするのだが、それも現在はほぼゼロ。あったとしてもレディバーンという名称は使えない。かつてシグナトリーが一度だけボトリングしたことがあるが、それは「エアシャー」という名前だった。現在レディバーンの樽を所有するのはグラント社だけで、ガーヴァンの集中熟成庫に10数樽しか残っていないという。それが下の写真だが、いつボトリングされるのやら…。
ガーヴァン・グレーンウイスキー蒸留所の外観。 ガーヴァンの集中熟成庫に10数樽しか残っていないレディバーンの樽。鏡に「LADYBURN」と書かれているのが確認できる。 一覧ページに戻る