2021-07-23
スコッチ【0128夜】1000年先も続くビジネスとは
異業種からウイスキー造りに参入したというと、日本では堅展実業の厚岸蒸溜所や、ガイアフローの静岡蒸溜所などがそうだが、スコットランドにも、いくつかそうした蒸留所がある。クラフトとして、真っ先に参入したウルフバーン蒸留所もその1つで、創業したのは2013年の1月のこと。創業者はアンドリュー・トンプソン氏で、出身はハイランド北部のケイスネス州・ウィックの町だが、長くイギリス海軍の情報将校として、主に海外を中心に活躍していたという。ヒマラヤやカラコルムの山にも登っていたというから、かなりのエリートだったのかもしれない。20代後半で軍を退職してからは、軍隊時代に知り合った同僚と南アフリカのケープタウンで、衛星通信ビジネスを始め、それで成功していた。その彼が、故郷ケイスネス州のサーソーで、立ち上げたのがウルフバーン蒸留所だった。
きっかけはスチルメーカーのフォーサイス社の現社長と、何かのパーティーで知り合い、そこでウイスキー造りにかける想いを聞いたからだという。フォーサイス社は北海油田のプラント造りが主な仕事だったが、もともとは古くから続くコパースミス。1970年代から90年代にかけては、ほとんどスチルの注文はなかったが、それでもスチル作りの伝統を絶やさなかった。「なぜだ?」というアンドリューさんの問いに、フォーサイスのリチャード社長はこう答えたという。「北海油田が1970年代に発見されて、今はいいが、50年先、100年先がどうかは誰も分からない。石油そのものが枯渇するか、石油産業自体が消滅しているかもしれない。それに対してウイスキーはスコットランドで1000年造られてきたし、1000年先も造られているだろう。だから私たちは続けているのだ」。
1000年先も続く産業…。アンドリューさんが、衛星通信ビジネスという本業の傍ら、クラフトウイスキー造りに乗り出したのは、まさにその一語があったからだという。
ウルフバーン蒸留所のスタッフたち。中央に写るのが創業者のトンプソン氏だ。 ウルフバーン蒸留所のフォーサイス社製ポットスチル。 一覧ページに戻る