2021-07-22
スコッチ【0127夜】王冠屋根で知られた旧インペリアル蒸留所
19世紀後半にスペイサイドに建てられた蒸留所は、パゴダ屋根のものが多かったと0126で紹介したが、実はひとつだけ、そうではない蒸留所がある。それが1897年に創業したインペリアル蒸留所であった。インペリアル蒸留所は、スペイ川の対岸にあるダルユーイン蒸留所の第2蒸留所として、この年に建てられたが、1897年はヴィクトリア女王の在位60周年の、ダイヤモンドジュビリーの年。それ故、インペリアル、“皇帝”と名付けられたのだが、その名にふさわしいようにと、キルンの煙突がパゴダ屋根ではなく、王冠の形をしていた。1960年代の拡張工事と、建て替えで、この自慢の王冠屋根は取り外されてしまい、今では写真でしか見ることができないが、それは見事な巨大な王冠だった。「キャロン森の深い緑の中に、ひときわ王冠の屋根が光り輝き…」と、かつてウイスキーの本の中でもそう述べられていたが、今はもちろん存在しない。
それどころか、インペリアル蒸留所そのものも2005年に閉鎖となり、当時のオーナーであったペルノリカール社によって、土地建物が売りに出されてしまった。キャロンの深い森と書いたが、スペイ川の畔にあったインペリアルは自然豊かで、リタイア後の高齢者住宅として最適といわれたが、さすがに辺鄙すぎたのだろうか。不動産開発は中止となり、2010年代に売却話は撤回。折からのウイスキーブームを受け、ペルノリカール社は、ここに巨大な蒸留所を建てることを決意。エネルギー効率にすぐれた最新鋭の蒸留所を、インペリアルの跡地に建ててしまった。
誰もが由緒ある旧名のインペリアルを名乗るものと思っていたが、ペルノリカールが発表したのが、ダルメニャックという蒸留所名だった。インペリアルは地名ではなかったが、ダルメニャックは、もともとの地名である。スペイ川沿いの小さな集落の名前で、新しい時代の、新しい蒸留所には、土地の名前こそがふさわしいと思ったのかもしれない。往年のインペリアルファンにしてみれば、少々寂しい気もするが。
2015年にオープンしたダルメニャック蒸留所。あと3年蒸留所のオープンが早ければ、エリザベス女王のダイヤモンドジュビリーの年と被っていたのだが…。 こちらが旧インペリアル蒸留所。 一覧ページに戻る