2021-07-20
スコッチ【0125夜】キルン棟が高級アパートに
スコッチは1960年代の世界的なブームで、造れば必ず売れるという時代が続いた。この頃、原酒不足に対応するため、改造可能の多くの建物や工場が蒸留所に改造されている。その最たる例が、かつての紡績工場を蒸留所に改造したディーンストーン蒸留所だが、他にもビール工場やパン工場、農家の建物を改造してスタートした蒸留所などがある。ところが、そのわずか20年後、一転不況に襲われたスコッチ業界は、次々と蒸留所の閉鎖を決定。それらは取り壊してスーパーマーケットにしたり、レストラン、ツーリスト用の安ホテルに改造したところもあった。もちろん、スコッチの蒸留所にはヴィクトリア期(1837~1901年)に建てられたものも多く、それらは歴史的建造物に指定され、取り壊しが不可というところも多かった。そこで、あの手この手が考え出されたが、蒸留所のキルン棟、さらにウェアハウスを改造して、高級アパートメントとして分譲したのが、ローランドのセント・マグデラン蒸留所である。
セント・マグデランはエジンバラから車で40分ほど行ったリンリスゴーに所在する蒸留所で、19世紀にはローランドモルトの代表格として名声を誇ったが、DCL社時代の1983年に閉鎖が決定。しかし歴史的建造物の指定を受けていたため取り壊しができず、大きなキルン棟やモルトバーン(麦芽床)、ウェアハウスは外観はそのままに、内装はデラックスな高級マンションに改造され、売りに出された。1990年代から2000年代にかけ、2度ほど訪れているが、なんとも豪華な住居で、今ではすっかり街の風景にとけこんでいた。イギリスでは、この手の古い住居のほうが価値があり、新築の住宅より、はるかに値段が高い。まして、それがかつての蒸留所となれば尚更である。そばには美しいリンリスゴー城(廃墟)があり、多くの観光客が訪れる。
それにしても、キルンの中に住む気分はどんなものだろう。世界中さがしても、キルンを改造した住居は、ここだけである。
閉鎖したセント・マグデラン蒸留所を改造して分譲した高級マンション。紡績工場を改造したディーンストーン蒸留所については、「0021 産業革命の歴史的建造物がウイスキー蒸留所に…」で取り上げている。 一覧ページに戻る