2021-06-30
アイリッシュ【0117夜】ブッシュミルズがベスト蒸留所賞に
「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)2021」で、“ベスト・アイリッシュ・ディスティラリー・オブ・ザ・イヤー”に輝いたのが、ブッシュミルズ蒸留所だ。ブッシュミルズが北アイルランド・アントリム州のブッシュミルズ村に創業したのは、1608年のこと。これは現存するウイスキー蒸留所としては世界最古を誇るが、実はこの年にブッシュミルズという蒸留所が登録されたという証拠はどこにもない。実際記録に現れるのは1784年で、これだと1757年に創業したブルスナ(キルベガン)や、トーマスストリート蒸留所のほうが古いということになる。では、なぜブッシュミルズが創業1608年を謳うのか。
1608年というのはイングランド国王ジェームズ1世が、アントリム州の領主サー・トーマス・フィリップスに蒸留免許を与えた年で、当時アントリム州のブッシュミルズ村周辺で、いくつかの蒸留所が操業していたことを意味している。それが必ずしも現在のブッシュミルズには繋がらないが、当時から王の勅許を得て、村の周辺でウイスキーが造られていたのは事実なのだろう。やがてアントリムを中心とした北アイルランドには、ロンドンの商人や、スコットランドから多くのプロテスタントが移民としてやってくる。もともとジェームズ1世は、スコットランド王ジェームズ6世のことで、1603年にエリザベス女王が亡くなったことで、イングランド王位を継いだ経緯がある。世にいう「同君連合」で、これでスコットランド王家とイングランド王家は一緒となった。
ロンドンの商人やスコットランド人を北アイルランドに送りこんだのも、直接北アイルランドの支配を王が画策したからだろう。ブッシュミルズ蒸留所は1885年に焼失し、その後スコットランド風に建て直された。設計は当代随一といわれたスコットランド人のチャールズ・ドイグで、双塔の美しいパゴダ屋根はドイグが設計したものである。ノンピートのモルトウイスキーしか造らないと決めたのも、この時からで、万事がスコットランド流なのだ。
チャールズ・ドイグが設計した双塔のパゴダ屋根が目を引くブッシュミルズ蒸留所。 ブッシュミルズ蒸留所にはシンボルとなっている1608という年号とスチルがいたるところに飾られていて、写真はレセプションホールのステンドグラス。