2021-06-08
ジャパニーズ【0111夜】JRの廃トンネル内で時を刻むウイスキー
洞窟や鍾乳洞で熟成というのは聞いたことがあるが、トンネルの中でウイスキーを熟成というのは、あまり聞いたことがない。それもJRの廃線となったトンネルというからスゴイ。それを実現させているのが、広島県廿日市市の中国醸造の桜尾蒸留所のウイスキーだ。今年になって中国醸造から「SAKURAO Brewery & Distillery(サクラオB&D)」と社名を変更して、より海外進出を視野に入れた体制づくりに舵を切っている。
もともと海外産原酒を使った「戸河内」というブランドを造ってきたが、今回から、すべて自社原酒を使ったシングルモルトの「桜尾」と「戸河内」にブランド変更した。「シングルモルト戸河内」の戸河内とは、広島県北部の中国山地の中にある旧JR(国鉄)のトンネルで、1980年代に廃線となり(そもそも開通しなかった)、今は使われなくなったトンネルのことだ。1970年代に山陽本線の可部駅と山陰本線の浜田駅を結ぶ今福線として計画されたもので、現在はトンネルだけが残されている。トンネルは試掘用と本トンネルの2本があるが、トンネル内は年間を通して気温15度、湿度80%に保たれ、独特の熟成空間を生んでいる。今は全長800メートルのトンネルの両入口から外気を入れているため、山の自然がそのまま生かされた環境となっている。
桜尾蒸留所では試掘用、本トンネルの2本のトンネルで熟成(ダンネージ式)を行っており、そのキャパは4,000樽を超えるという。今回シングルモルト・ジャパニーズウイスキーとして出すことになった「戸河内」は、ノンピート麦芽の仕込みで、使用している樽はファーストフィルのバーボンバレルだという。トンネルという独特な環境と、深い山に囲まれたそのロケーションが、清々しく、そして瑞々しいアロマ・フレーバーを醸し出している。それはまさに山の霊気とでも呼ぶべきもので、思わず深呼吸したくなるようなウイスキーだ。環境がウイスキーに与える影響について教えてくれる貴重な商品となっている。
「桜尾」と「戸河内」は、7月1日から発売予定とのこと。公式ホームページでは、発売日までの残り時間をカウントダウンしている。 一覧ページに戻る