2021-05-19
アイリッシュ【0104夜】アイリッシュは今でも密造酒をつくっている!?~その②
18世紀後半の「ポットスチル法」によって小規模蒸留所は撤退を余儀なくされたが、こうした業者は政府の眼が及ばない西部の山奥や海岸、島しょ部に逃れて密造酒を造るようになる。もともとポチーンの歴史は、アイルランドに蒸留酒文化が伝わった6~7世紀頃からあるといわれるが、かつてはどの農家でも、このポチーンを造っていた。16世紀になって、蒸留には免許がいるようになり、18世紀には農家の自家製ポチーンが禁止されたが、それでポチーン造りが消えたわけではない。逆に前述の法によって、都会部からアイルランド西部にのがれる業者も続出し、19世紀半ばから20世紀にかけて、“ポチーンの黄金時代”といわれる時代がつくられた。
この頃、ポチーン造りの中心といわれたのが、コノート地方のドニゴールやスライゴー、そしてメイヨーなどの各州である。ドニゴールはもともとスコッチとの結びつきも強く、独自のポチーンを育んできたが、ほとんどは地産地消。対してスライゴーはポチーン造りと流通の中心として栄えたという。ポチーンはウイスキーと違って樽熟成をさせない、無色透明のスピリッツである。しかし原料は、ほぼ麦芽100%で、しかも小さなスチルで2回蒸留。パーラメントウイスキーとは対照的で、味ははるかに美味しかったという。ましてや税金を払っていないのだから、ウイスキーに比べて安価で、アイルランドの民にとって、これが彼らの“ウイスキー”だった。
その中心地がスライゴー湾の沖にあるイニッシュマレイという小島で、ここのポチーンは、ポチーンの代名詞といわれるほど名を馳せたという。この島のポチーン造りは1948年まで続いたというからスゴイ。この年、最後の島民が去り、現在は無人島となっている。アイリッシュのクラフト蒸溜所がこぞってポチーンを造るのは、それが貧しいアイルランドの民の酒だったからであり、それが文化だという想いがあるからだろう。ちなみにポチーンは現在、GI認証を受けている。つまりアイルランド以外ではポチーンは造れないのだ。
次回は、最近話題になったアイリッシュウイスキーについて紹介するので、お楽しみに! 一覧ページに戻る