2021-05-17
アイリッシュ【0103夜】アイリッシュは今でも密造酒をつくっている!?~その①
クラフト蒸留所がウイスキーができるまでにということで、ジンを売りだしたのが、今日のジンブームのきっかけの1つだが、スコッチのクラフトが造るのがジンであるのに対し、アメリカのクラフトが造るのがムーンシャインで、アイリッシュが造るのが、ポチーンだ。ムーンシャインもポチーンも、もとは密造酒のことだが、なぜアイリッシュはポチーンなのか。そもそもポチーンとはどういう酒なのか—。
ポチーンは“小さなポットスチル”、Poteenから派生した言葉で、もとは密造酒のことを指していたが、19世紀から20世紀初頭にかけて、アイルランドでは広く造られるようになった。当時、度重なる酒税法の改訂と重税で、アイルランドでは“パーラメントウイスキー”と、ポチーンの2つが存在するといわれた。パーラメント(議会)ウイスキーとは文字どおり、政府の許可を受けた公認蒸留所で、ポチーンは密造酒である。アイルランドはウイスキーの原料である大麦麦芽に高い税金がかけられたし、やがて『ポットスチル法』によって、スチルのサイズ別に税金がかけられるようにもなった。麦芽に対する税金に対抗するために取られたのが、麦芽以外の穀物も混ぜて仕込みに用いるポットスチルウイスキーで、19世紀以降、アイリッシュではこれが主流となった。スチルのサイズによる課税は、サイズが大きくなればなるほど、税が優遇された。理由は密造用に使われる小さなスチルをなくすためである。そのためアイリッシュの業者はスチルを大きくし、そして麦芽以外の穀物も混ぜる独特のスタイルを確立した。これがパーラメントウイスキーで、メジャーな蒸留所と、そのブランドは、ほぼすべてがこれである。
いっぽうで、それに対抗できなかった小さな業者は次々と閉鎖に追いこまれ、1780年代初めに1260ヵ所近くあった蒸留所は、その10年後の1790年にはわずか240ほどとなり、さらに1820年代には、たった32蒸留所となってしまったという。密造酒対策は、ある意味成功したかに見えたが、どっこいポチーンはなくならなかった。それどころか…。(つづく)
グレンダロッホ蒸留所の「マウンテンポチーン」。グレンダロッホ蒸留所については、『0078 聖人が描かれたアイリッシュウイスキー』で紹介している。 エクリンヴィル蒸留所の「バンポチーン」。今でこそ堂々と市場に出回っているポチーンだが、実はつい最近の1997年まで、アイルランドではずっと”密造酒”のままだった。 一覧ページに戻る