2021-05-14
アイリッシュ【0102夜】『ライアンの娘』の舞台となったディングル半島
「アイルランドのことを知りたかったら、アイルランドに行かなくても、アイルランドの作家が書いた文学を読めばいい」と言ったのは、司馬遼太郎だが(街道をゆくシリーズの愛蘭土紀行)、もうひとつ、あえて付け加えさせていただくと、アイルランドを舞台とした映画もそうかもしれない。『アラビアのローレンス』で知られる名匠デイビッド・リーン監督が、ディングル半島を舞台に製作したのが『ライアンの娘』(1971年公開)だ。1997年に放送されたNHK・BSの旅番組『地球に好奇心』で、私はこの映画の舞台となったディングル半島を訪ねたことがあるが、そこにはロケで使われた小学校の建物が、そのまま残されていた。
そのディングル半島のディングルの町はずれに2012年にオープンしたのが、ディングル蒸留所だ。古い粉挽き場を買い取り、それを改修して蒸留所としてオープン。造っているのはモルトウイスキーとポットスチルウイスキー、そしてジンやウォッカ、ポチーンなどだが、レンガ造りの建物の外には鉄製の大きな水車が今も残されている。この水車は当時としては、アイルランドで2番目に大きく、もっぱら大麦や小麦、ライ麦を粉に挽いてイギリスやヨーロッパ諸国に輸出していたという。ディングル半島一帯は1840年代のジャガイモ飢饉の時、多くの犠牲者を出したが、それらの穀物はすべて輸出用で、アイルランドの民は口にすることができなかったのだという。
ディングル一帯はアイルランドでも一、二を争う風光明媚な土地柄で、沖合には世界遺産に登録されているスケリッグマイケル島も浮かぶが、アイルランドのクラフト蒸留所、特に西海岸の蒸留所を回っていると、この時のジャガイモ飢饉の話をよく聞く。180年近くも前のことだが、その土地に暮らす人々にとっては、今でも忘れられない出来事なのだ。
スチルはフォーサイス社のものが3基。 かつてアイルランドで2番目に大きいといわれた粉挽き用の水車。ディングルは古くから栄えた港町でもあり、特にフランスやスペインとの交易が盛んだったようだ。この地域に伝わる「レンボーイ」という変わった(?)風習については0052で紹介している。 一覧ページに戻る