2021-05-07
スコッチ【0098夜】帆船カティサーク号とそのウイスキー~その②
カティサーク号は1869年にスコットランドのダンバートン港で建造された快速帆船(これを英語でクリッパーという)だったと、前回紹介したが、もともとカティサークというのはスコットランド語(エアシャー方言)で、女性の短い下着、シュミーズ(シミーズ)のことだという。快速帆船になぜこの名前がつけられたかというと、この言葉は、ロバート・バーンズの代表作、『タム・オ・シャンター(シャンタ村のタム)』の中に出てくる言葉だったからだ。
ロバート・バーンズはスコットランドの『国民詩人』といわれる詩人で、生まれ故郷のエアシャーの方言を大胆に用いて700近い作品を残した。日本では『蛍の光』の原詩者といったほうが分かりやすいかもしれない。そのバーンズの代表作の1つが『タム・オ・シャンター』という長い物語詩で、土地の魔女伝説と、大酒飲みのタムにまつわるユーモラスな話である。タムは愛馬メグに乗って毎晩のようにパブにくりだしていたが、ある嵐の夜に、帰り道で魔女たちの宴会を目にしてしまう。魔女たちが短い下着だけで歌ったり踊ったりしていたのだ。
思わず恐怖を忘れその姿に見入ってしまったタムだったが、魔女に気付かれ、慌てて逃げるハメに。愛馬メグに乗って逃げるタムと、それを鬼の形相で追いかける魔女たち。ドゥーンの川に架かる石橋(ブリガドーン)を渡り切れば人間界で、無事タムは逃げられるが、そうはせさじと追う魔女ナニー。物語のクライマックスで橋を渡り切ったタムは、寸手のところで命は助かったが、可哀そうにメグの尻尾はなくなってしまった。魔女がつかんだ馬の尻尾は、魔女の手に握られたままだったのだ。
カティサーク号は現在テムズ河のグリニッジに永久保存されていて、世界遺産にも登録されているが、船首のところに飾られている帆船のマスコットは、片手に馬の尻尾を握りしめた魔女の人形なのだ。その魔女が着ているのが船名の由来となった、カティサーク、短い下着である。
『タム・オ・シャンター』に登場するブリガドーン(ドーン橋)と、作者・ロバート・バーンズの胸像。ちなみに、ロバート・バーンズについては『スコットランドの国民詩人(0057)』でも紹介している。 一覧ページに戻る