2021-03-30
スコッチ【0085夜】海草を食べる”世界一かわいそうな羊”とは…
海草を食べていることから、イギリスの動物保護団体から“世界一かわいそうな羊”とレッテルを貼られてしまったのが、オークニー諸島の北のはずれ、ノースロンドルシー島に生息する、その名もノースロンドルシー・シープだ。この島だけの固有種で、5000年以上も昔からこの島に生息する古代種の一種だといわれている。
海草を食べるようになったのは、島にヴァイキングがやってきて住むようになってからで、人々は自分たちの家畜や畑を羊から守るため、海岸線にそって1.5メートル近い石壁をぐるりと築き、もとからいた野生の羊を、その石壁の外に追い出してしまったのだ。かわいそうな羊たちは石ころだらけの海岸で、海草などを食べて種をつないできたという。島の大きさは南北5キロ、幅1.5キロ、面積約7平方キロで、それほど大きくはないが(人口約70人)、自分たちの生活を守るために、周囲にぐるりと石壁を巡らせるとは。
ところが近年、この羊は肉質の良さと希少性ゆえに、世界中のグルメの間で評判となり、現在はオークニーの特産品として、逆に飼育に力を入れているのだという。もちろん、牧草や配合飼料は一切与えず、昔ながらの自然飼育に近い状態だ。さらに、風の強い海辺で育つため、羊毛も一般的な羊に比べて脂分が多く、レアブリードの羊毛愛好家にとっても、喉から手が出るほどほしいものだという。
オークニーのレストランで、そのラム肉がメニューに上ることは滅多にないが、羊毛は地元カークウォールのニット店、羊毛専門店などで手に入れることができる。灰褐色の天然のウールで、他のオークニーの羊の毛に比べても、その値段は3倍近くもするが、人気だという。
ちなみに海草で育てられた羊はフランスやオーストラリアにも存在し、日本でもかつて宮城県の南三陸町などで、特産のワカメを使った羊の飼育が試みられていた。肉質はミネラル分が多く、独特のコクがあって美味だ。
ノースロンドルシー島に生息しているノースロンドルシー・シープ。かつては島民から煙たがられていたが、今では特産品になるほどの人気者? 一覧ページに戻る