2021-03-26
スコッチ【0084夜】タリバーディンとジェームズ4世~その②
「王命により修道士ジョン・コーに8ボルの麦芽を与え、アクアヴィテを造らしむ」。ウイスキーの愛好家で、この文章を知らない者はいないと思うが、これがウイスキーについて言及した人類最古の記録である。書かれたのは1494年で、これをもってスコッチは、スコッチ元年としているが、ここに登場する王こそが、1488年に即位したジェームズ4世のことである。
当時、王が住んでいたのが、ファイフにあるフォークランドパレスで、その宮殿近くにあったのが、リンドーズ修道院。そこの修道士ジョン・コーに8ボルの麦芽を与えてウイスキーを造らせたわけだが、なぜ王はそんな命令を出したのだろうか。実はその前年の1493年に、王はわざわざアイラ島に進軍し、2世紀近くにわたってヘブリディーズ諸島の覇権を握っていた、アイラ島の領主、ローズ・オブ・ジ・アイルズ、島々の君主を滅ぼし、スコットランド王国の中に組み込んでいる。
その時、島々の君主から差し出されたのが、アイラの宮殿で代々受け継がれてきた、ウイスキー造りの秘伝書ではないかといわれている。アイラにウイスキー造りが伝わったのは、島々の君主の祖であるアンガス・オグの時代で(14世紀初頭)、もともとアイルランドから伝わったとされている。それを手に入れたジェームズ4世が、お膝元のリンドーズ修道院に造らせてみた…。それが1494年の歴史的な文書だったのではないかと、いう訳だ。
ちなみにジェームズ4世の母は時のデンマーク王(ノルウェー、スウェーデン王でもある)、クリスチャン1世の娘マーガレットで、父のジェームズ3世(1460~88年)と結婚した際、持参金の代わりとして持ってきたのがシェットランドとオークニーの領有権だった。つまりジェームズ4世はヘブリディーズだけではなく、オークニー、シェットランド諸島も母から受け継ぐ形となったのだ。
(上)世界で初めてウイスキー造りについて言及した、1494年のスコットランド王室財務省の公式文書。(下)スコットランドで初めてウイスキー造りが伝わったとされるアイラ島にあるフィンラガン湖。 一覧ページに戻る