2021-03-08
スコッチ【0075夜】バルブレアと謎のピクト族、ピクトシンボル~その①
今第4版となる私のモルトウイスキー大全(1995年初版発行)、『シングルモルトスコッチ大全(仮)』のために日々テイスティングしているが、その時にいくつかのボトルのキャップに面白いデザインが施されているのに気が付いた。ひとつはバルブレアで、もうひとつがディーンストーンである(アルファベット順にやっているので…)。
バルブレアは北ハイランドのエダートン村に1790年に創業した蒸留所で、ケン・ローチ監督の『天使の分け前』のロケ地となったことでも知られているが、2000年代半ばのパッケージ変更から、蒸留所のすぐ近くにあるピクトストーンをシンボルとして使ってきた。ピクトストーンはピクト族が建てた謎の石で、表面に不思議なシンボルが彫られている。そもそもピクト族そのものが謎で、彼らの文化や歴史もよく分かっていない。現在いわれているのは、ピクトはケルト民族の一派で、紀元前1~2世紀頃に大陸から渡ってきて、主にブリテン島の北部、スコットランドに定住した民族だということ。北スコットランドの島や海岸部に見られるブロホという石造りの円筒型の要塞は彼らが造ったと思われること。文字も持たず、非常に好戦的だったということくらいだ。
ピクトというのは紀元前1世紀から紀元後4~5世紀にかけブリテン島を支配したローマ人が付けた名前で、これは英語のピクチャー、絵画の語源となった言葉で、「彩色をする」「入れ墨をする」という意味があるらしい。たびたびローマの戦記や物語でも、顔や体に迷彩をほどこした野蛮な民族として、このピクト族が登場する。そのピクト族がローマが去った後に建国したのがアルバ王国だといわれていて、これが現在のスコットランドのもととなっている。しかし不思議なのは、彼らの文化がほとんど伝わっていないのだ。
それは、どうしてなのか。なぜピクト族は歴史の表舞台から消えてしまったのか。(0076につづく)
アンガス地方にあるピクトストーン。ピクトストーンのデザインは20~30パターン存在し、7世紀頃より後に建てられたものには十字架のデザインも見られる(写真のストーンは三日月だが)。これは、ピクトがキリスト教に改宗したことが関係していると考えられている。 一覧ページに戻る